翻訳の仕事に入る前に片付けなければと、人手も借りて鋼管パイプとジョイント金具で第二薪小屋を打建て、さらには電力会社の「障害木」(ナンダカ哀レヲ催ス言ヒ様ダ)として伐採された楢の丸切りを半日かけて一気に斧で割り、さてと机に向かったのが13日。前書き部分を粗訳し始めてまもなく結構難物だわいと弱気の魔が射したのが災いか、たちまち今年初めての大風邪に罹った。たちまち発熱39度で、耳の中でもつれる文脈をほどいては組み直し、針金細工みたいな日本語がどんどん生産されてたちまちA4で100枚近くになった。籠る間に富士山は今年も、東の空に去り残っていた雲を一掃して良寛の書のごとくアッケラカンと。PCに疲れたこちらの目には飛蚊、霞など夏の景物ちりぢりに残留して去らず。まあいい、Tomorrow is another day.終わる明日はきっと来ると老骨に笞一閃も、彼は昔の彼ならず。弾力も反発力も慣性力すら働かず重い肉塊。嗚呼。夜になると精魂抜けて、椎がやけに白くみえる食卓の周りをひとり小惑星となって一象限ほど捩じれてみたり。かの楽の音は何処より?数晩前には縁台にて、メルセデス・ソーサのGracias a la vidaが近隣より風に乗り流れ来てしたたか泣いた。栗の上空高く西にかたぶくは何時のイザヨヒぞ。さて、黙るもよし。月しろの戯れか、しらけた椎の光の中に放恣に開かれてあるルターの引けるコリント書の美しき一節が。
もしある人が座ってほかの人が神の言を語るのを聞いている時、彼がよりすぐれた啓示を受けたなら、はじめに語っていた者は沈黙し、彼に譲るのが当然である。
かつて「聴く者の律儀の絶えた」という詩句をしたためしより、然りと耳奥にて舌打ちする我ありしが、訳語の美麗に過ぎるを怪しみてにわかには諾わず。
階上の書架より数冊のコリントを取り出で参照せしが、唯
座っている他の人に啓示が与えられたら先に語り出していた者は黙りなさい。
傘の骨の如き哉。
さらに究めんとてOxfordCambridgeBibleを参照せるに、やはり更に肉殺ぎ落ちたるパセエジが枯れ木の如く夜闇に響くのみ。
If someone else present receives a revelation, let the first speaker stop.
然し乍ら我は失望せしにあらず。唯徒なる文飾の帰趨は斯くの如きかと卒然と悟りしのみ。
啓示を与えられし者を世に見いだせば黙るべし。詩語の狂騰のさなかの朦朧にふと去来せる「耳の律儀」を書きしより、我は未だその義を知らざりき。