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第1話 逆転新世代(65)
7月16日 午後12時42分 地方裁判所第1控え室
「犯人……マッチョ・ストロングは全てを自白したッス!マッチョ・ストロングはやっぱり金が目当てだったッス!」
自供によると、最初は殺すつもりはなかったそうだ。気絶させて金を奪う。マスクを被せて視界を奪えば、誰に襲われたか分からない。そして、金だけ奪って逃げるつもりだったとか。マッチョと被害者くらいしか来ない公園でそんなことが起これば、顔を見なくても犯人は想像できるのだが、そこまで頭が回らなかったようだ。
しかし、マスクを被せる瞬間、瀬高刑事は背後の気配に気付き振り返る。後ろ向きに被せられたマスク。だが、被害者が振り向いたことで、それは被害者の頭に横向きに被せられた。そして、左目の穴から覗く被害者の右目と、マッチョ・ストロングの目が合った。
その時、マッチョ・ストロングは当然素顔だった。間違いなく顔を見られた。
それに気付きながらも、マッチョ・ストロングは技を被害者にかけた。もう、勢いはついていた。止まるはずもない。ちなみに、王泥喜はバックドロップだと思っていたが、正しくはジャーマン・スープレックスだったようだ。
被害者は気絶した。目を覚ませば、犯人が誰だったかバレてしまう。もはや、マッチョ・ストロングには瀬高を殺す以外の選択肢はなかったのだ。
電話の内容からそこに待ち人が来るのは明らかだった。そしてその待ち人は、恐らく数分はかかる場所にいることも。後は王泥喜が考えたとおりだ。工作をし、やって来た黒田に罪を着せた。
「しかし……危なかったなぁ。糸鋸刑事がマスクを見つけてくれなかったら、今頃有罪判決出てましたよ」
言いながら王泥喜は思う。どうにか粘りに粘ったが、自分一人の力では勝利は勝ち取れなかっただろう。自分がした事、それは糸鋸刑事が決定的な証拠を見つけ出すまでの時間稼ぎだ。自分はまだまだだな。
だが、糸鋸は言う。
「いや!自分は何もしてないッス!礼ならマコクンと……宝月クン、ミサイル2号に言うッス!」
「ミサイル……?」
話が飲み込めない王泥喜。
「ミサイルちゃんは警察犬だよ。もうね、かわいいの!」
宝月刑事が言った。あのマスクを見つけてくれたのは警察犬のようだ。
「マコクンに言われて、公園と被害者自宅の間を調べていたッス」
「話を聞いていたら、現場と工作のために行った被害者のアパートの間に何かあるんじゃないかなぁって思ったッス!それでイトノコさんに電話をかけて、調べてもらったッス!……なんて言うか、元警察官の勘ってやつッス!」
「自分にはそんなこと思いも寄らなかったッス」
苦笑いしながら言う糸鋸刑事。王泥喜はマコの方が警察官として優秀だったような気がして来た。
「イトノコさん、俺のせいで給料が……。スミマセン!」
黒田は糸鋸刑事に頭を下げた。
証拠を見つけたのはミサイル2号でも、その証拠品に残った指紋で持ち主を特定したのが宝月刑事でも、その道を指し示したのがマコでも、その証拠を自分の立場も構わずに提出してくれたのは糸鋸刑事なのだ。
「自分の給与査定はもう……既にどん底ッス!今更怖いものなどないッス!」
苦笑いを浮かべる糸鋸刑事。
「あの。その給料ですけど……。もしかして、あたしの給料も下がっちゃったりとか……?」
不安そうに聞く宝月刑事。糸鋸刑事は目を合わせないようにしながら答えた。
「……だから出しゃばらずに自分に任せろって言ったッス」
「だってぇ。おいしいところ、持ってかれると思ったんだもん……」
宝月刑事はホオズキのように頬を膨らませた。
「キレイだったあたしの給与査定……キズモノにした責任、取ってくださいね!」
何か誤解を呼びそうな言い方だ。
「……それじゃ、ソーメンおごるッス」
ソーメンで収まるはずがなかった。黒田が助け船を出す。
「イトノコさん……!俺、いつかきっと……イトノコさんにカツ丼おごります!もちろん、宝月さんにも!」
「自分は部下におごらせるほど落ちぶれてないッス!でも……ソーメン食べながらちょっと楽しみに待つッス」
糸鋸は豪快に苦笑いをした。
「あたし、カツ丼じゃなくて甘いものがいいなあ……」
「じゃあ……今日のところはコーヒーでどうッス?きっと、今頃マスターも無罪判決が出ているッス!そうしたら、きっとコーヒーくらい気前よくおごってくれるッス!甘いものは……角砂糖があるッス」
今度はマコの助け船。
(そうだ……!なるほど先生の依頼!そっちも気になるぞ!)
みんなでそちらの控室に向かう。
王泥喜は一昨日の調査を、そして昨日の法廷を思い出していた……。
第一話 完
第二話につづく

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