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第2話 逆転ブレンド(56)
尋問中
「
店に戻った女給さんは、前掛けのヒモを縛りながら被害者の席に行った!」
「待った!ヒモを縛りながら……ですか?」
「そうだ!何というか、後ろ手にこう、もぞもぞ動く姿が、また悩ましいのなんの!」
オジサンは表情を緩ませた。
「それで……ウェイトレスはずっと後ろ手で?」
「その通り!そして後ろ手のまま被害者の席を覗き込み、後ろ手のまま通り過ぎていったのを憶えております」
「間違いありませんか!」
厳しく問いつめる成歩堂。オジサンは、自信なさげに言う。
「……正直なところ。間違いない……とは言いにくいところがありましてな」
「は?」
「なにぶん、その後ろ手の手元や背中ばかり注目していたので、被害者の席で何をしていたのかははっきりとはしませなんだ」
御剣は五十嵐に問う。
「その、じっと見つめていた手元はどうだっただろうか?何か、不審な動きはあっただろうか?」
「手はずっと、背中のヒモとの泥仕合を繰り広げておりましたな」
淀みなく答えるオジサン。とりあえず、手は塞がっていたと考えて間違いないようだ。
「
そしてヒモを縛りながらいつもの場所に帰りましたな」
「待った!!いつもの場所というと、カウンターのあたりですね?」
「左様!被害者がトイレから出てくる頃には、ヒモとの格闘は終わっておりました」
「つまり、ウェイトレスは被害者の席に近付いた。しかし、その手は後ろに回され、カップに触れることも、何かを入れるようなこともなかった。このことは間違いないと言っていいだろう」
御剣は言う。
「そのようですな。どうやら、ウェイトレスの疑いはひとまず晴れそうです」
裁判官も頷く。傍聴席で不安げな顔をしていたマコも、ほっとしたようだ。
しかし、これで一件落着と言うことにはならない。なにせ、もっと重要な証言が飛び出しているのだから。
「
被害者は、前の日にも変装してこの店に来ておった!」
「待った!それは、携帯の着信音と鞄が同じだからそう思うというわけですよね?同じ鞄を持った別人と言うことは考えられませんか」
五十嵐は少し考えてから言う。
「携帯電話と鞄だけが同じで、別人だったのではないかという話だな。確かにそれはあるかも知れん。前の日に来た時は、トイレに入る時には鞄を席に置きっぱなしにしていたしな」
「と、トイレにも入ったんですか?」
「ああ、そうだ。その時だったかのう。あのカッコウの鳴き声が聞こえてきたのは。……テーブルの上に置かれた携帯電話が、とんでもない音をさせながらカッコウの鳴き声を!」
オジサンは鬼気迫る表情で豆を貪りつつ言う。
「と、とんでもない音とはなんですか?」
「ほれ、今時の携帯電話はアレだ。バイブルがどうこうで唸りよる。その音だ。わしゃ、突然の音にびっくりして女給さんのようにコーシーをこぼしそうになりましたわい!」
「それ……バイブレーション機能のことですよね?」
王泥喜の言葉に、成歩堂も頷いた。
「そうだろうね。テーブルなんかに置いた状態でバイブレーションのケータイに着信すると、凄い音がするし。そんな音が鳴れば、確かにびっくりするかも。オジサンがはっきり憶えていても不思議はないね」
「トイレから出てきて、すぐにその電話でどこかにかけておった。楽しげに話しておったな。今思えば、あれはコイビトにかけておったんじゃないかの。男と話すような口調じゃありませんでしたわい」
(最後のは推測だ……。それにしても、次から次と新事実がホイホイ語られるなぁ……。御剣なんか、さっきから固まったままだぞ……)
目を見開いて固まったままの御剣に代わり、成歩堂が質問する。
「何の話をしていたか、憶えていますか?」
「明日のデートがどうこうとか言っておったな。甘酸っぱい話だわい。ワシも、酸味のキツいブレンドに砂糖を入れて飲みたくなったわ!」
「青春の日々は……青いレモンの香り……だぜ」
ゴドーがどこかで聞いたことのあるようなセリフを呟いた。どこで聞いたのか、成歩堂は思い出せそうで思い出せない。
「前日に被害者が店に来ていた。そして、翌日にデートをすると話していた。すると、その前日の来店は下見だったのかも知れない。そうなれば、翌日もこの店に来ることが推測できる……。計画的な殺人であった可能性が高くなってきたようだ」
御剣は言った。成歩堂は低く呟く。
「計画的な犯行……その可能性は……」
ボクの答えを示そう
・ありえない
・なくもない
つづく

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