暴君ハバネロやそこから派生したハバネロたんの影響でブームを起こし、今やその種子や苗や実を、ホームセンターやネット通販で合法かつ簡単に誰にでも入手できるハバネロ。
だが、その気軽さに反し、実に危険極まりないものだ。
スナック菓子暴君ハバネロ、他にもデスレインなどのハバネロを使用した菓子類を食べたことがある人は多いだろう。激辛スナックとして人気商品ではある。だが、ある意味それにより、ハバネロの危険性に対して甘い先入観を持つことが多いのも事実だ。
如何にせん、暴君ハバネロとて菓子であり、商品化された食品だ。当然、激辛とは言えども限度というものをわきまえている。(デスレインは分からん。ハバネロより辛いとも聞くし大して辛く無いとも聞く。一概に言えるのはまずいと言うことのようだ)
だが、実物は甘くない。いや、唐辛子だから辛いのは当たり前だし、逆にその「独特の甘味」が好まれたりもするがそう言うことじゃなくて。
暴君ハバネロなどの菓子類、その他食べやすく加工されたハバネロ関連食品でハバネロを知ったつもりで接するのは、ゲームの知識で戦争に行くようなものだ。
所詮食べ物、と言う認識があるかも知れない。だが、ハバネロの果実はそのまま食べることはまずできない。辛味が強すぎ、危険だ。
だが、ハバネロは加熱調理することに辛味が弱まり、甘さと独特の香りが発生する。辛さにある程度強ければおいしく安全に楽しむことができる。
ハバネロが牙を剥くのは調理時である。ハバネロによる「事故」のほとんどは調理時に起こっている。加熱調理済みのハバネロは言ってみれば息の根を止められた野獣だ。手を加えられていない状態でもおとなしい。対し、調理中はまさに手負いの獣そのものである。迂闊に触れば怪我をする。
初めてのハバネロ調理体験談では、その凶暴さを身をもって知る場面が多く見られる。
まず、切った時に漂う匂い。まさに、空気が辛くなる。換気なしではむせかえり、涙が出るほどだ。ここで、その尋常ではない辛さのやばさに気付く人も多い。
切った汁を少し舐めてみる、と言う行動に出る人が多い。俺もそうだった。少し傷つけ、滲みだした汁を指で拭って舐める。中には一欠片口に入れてみる人もいる。最初はぴりっと辛く感じる。ここらで「さすがハバネロ」と納得しかけるが、そこに遅れて襲ってくる凄まじい辛さに口の中が占拠される。もはや辛いではない。激痛だ。さらに、汁をつけた指が腫れて痛む。その指で触れたところがやはり腫れて痛む。軽く触っただけにしては、あまりにも強烈なしっぺ返し。ハバネロの危険性を身を以て知る一幕だ。
先日、このブログの
ハバネロ調理の時に手に汁ついてアイタタタ記事に、素手でハバネロの種取り他をしたところ、2時間ほどあとから腫れ始め、翌日になっても痛みも腫れも引かず、病院で処置してもらい、その後しばらく症状が残っていたという体験談実況コメントが寄せられている。
この話のあと、「唐辛子は種の部分が一番辛い(そう言えば昔から種は辛いってよく言われてるな)」「唐辛子が辛いのは種の部分で作られるカプサイシンが他の部分に回っているから」と言う話を聞いた。よりにもよって、一番辛味成分が集まっている場所をこってりと弄り倒してしまったとなれば、話にあっただけの症状も納得できる。
それにしても、数日にわたり症状が出るというのは尋常ではない。
ウィキペディアに拠れば、カプサイシン含有率の目安でもあるスコヴィル値は大体20万くらい、レッドサビナで45万くらいのようだ(あくまでも上限と下限のだいたいの中間値なので、平均値は違うかも)。それに対して一般用の催涙スプレーが200万。こう聞くと催涙スプレーの方が圧倒的に強烈なようだが、催涙スプレーに関して情報を集めたら
このような記述があった。
「(催涙スプレーを自分であびてしまった場合)スプレーの成分のついたもの(服やメガネなど)をすぐに取り除き、大量の水で洗い流して下さい(このとき、石鹸は使わないで下さい)。(中略)個人差はありますが、そのまま30分〜1時間ほど新鮮な空気にさらせば、元に戻ります。」
カプサイシンはカプサイシノイドの一種で、普通の唐辛子にはこのカプサイシンが多めに含まれる。これは、シャープな辛味成分で、これに対しやや少なめに含まれているジヒドロカプサイシンという成分は、長く辛味として残るらしい(
資料)。
ハバネロの辛さはパンチも強いが、その後じわじわとさらに効いてくる。大体、ハバネロで腫れるのは時間をおいてからだ。その時は何でもないが、なんかだんだんひりひりし始め、そのうちうぎゃああああぁぁぁぁという感じになる。これは恐らくこの遅効性のジヒドロカプサイシン系の含有率が高いためだと思われる。そのため、ハバネロの汁が付いた場合にはいつまでも痛みが引かないのだろう。
生憎、ネットでは5種類もあるカプサイシノイドのそれぞれの細かい特性について言及した記事を見つけられなかったが(探し方が悪いだけかも知れないが)、推測するにハバネロに含まれる凶悪な辛味成分は揮発性も高いのではないだろうか。だから刻んだだけで空気が辛くなり、加熱調理で辛さが和らぐのだろう。
催涙スプレーの場合、即効性が要求されるのでカプサイシンが適しており、洗い流せば後遺症が残りにくいそうだ。それに対しハバネロは、量によっては数日に渡り痛むのも成分の違いによるものだと思われる。「所詮は食べ物」であり、「催涙スプレーに比べ5〜20分の1程度」のカプサイシノイド含有率であるハバネロだが、ヤバさはこちらの方が上と言えるだろう。
おまけになるが、日本と韓国で同じ種類の唐辛子を作ると日本の方が辛くなる、と言う話も耳にした。また、唐辛子は葉を虫に食われたり、水が不足するなどのストレスを受けると辛さが増すと言うことも聞いた。日本の土壌は火山などの影響もあり酸性が強く、古代人の人骨が出にくいと言う話を縄文関係の書籍でよく見かける。一方唐辛子類は土壌をアルカリにする石灰などを好み、ハバネロの産地として名高いユカタン半島は石灰質の大地が広がっている。
アルカリを好む唐辛子が、酸性土壌に生えること自体ストレスとなり、辛さを育んでしまうのだろう。もしかしたら日本で育ったハバネロは本場のハバネロより辛めになるのかも。
しかし、ハバネロの辛さはヤバい、と言う話を書くだけのはずがこの長さ。この記事もヤバいな。

1