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第1話 逆転新世代(9)
尋問・現場の状況
「
現場は他に誰もいない状況だったッス」
「待った!現場にいたのは被告人と目撃者、そして被害者の死体だけだったんですね?」
「そッス」
素っ気ない糸鋸の答えに、王泥喜は額に手を当て、考え込む。
「まだ明るいのに、公園がそんなに寂れるもんですかね?」
「無理もないッス。あそこは10年くらい前に殺人事件が起こってるッス。それ以来、あの公園では怪奇現象が起こるようになったッス!」
「か、怪奇現象……ですか?」
(どうしよう。もっとよく聞いてみようか)
少し聞くのが怖い気がする。だが、何か重要な証言があるかも知れない。思い切って聞いてみることにした。
「どんな怪奇現象が起こるんですか?」
「その公園でデートしていたカップルの記念写真に、さまよう警官の霊が写ったっす」
「心霊写真ですか!」
「まあ、よく調べて見たら巡回中の警官がたまたま写り込んだだけだったッスが……」
苦笑いしながら言う糸鋸。
「……ちっとも怪奇じゃないですよね、それ」
「まだあるッス!物が消える怪現象も起こったッス!」
(まさか……現場から証拠品が消えたのか!?)
王泥喜は身を乗り出し、指を突きつけながら思わず叫ぶ。
「く、詳しく話してください!」
「自分が落とした十円玉が、跡形もなく消えたッス!」
「……は?」
「公園にあった自販機でコーヒーを買おうと思ったッス!その時、自分の手から十円玉がコロリと!……それっきりッス。懸命の捜査にもかかわらず、十円玉の行方はようとして知れないッス。そのせいで、結局コーヒーは飲めずじまいだったッス」
王泥喜は、身を乗り出していたせいで、力が抜けた時にそのまま台に倒れ込みそうになった。
(当時の刑事の所持金、はっきりと分かるな)
「そしてもう一つ……」
「ま、まだあるんですか?」
もう勘弁して欲しい。しかし、今度こそ何か重要な話が出てくるかも知れない。
「言うまでもなく、この事件ッス!」
「はぁ」
「あの公園で起こる殺人事件はいつもいつも被害者も容疑者も警察官ッス!そんな事件ばかりッス!」
「他にも殺人事件が起こってるんですか!?」
思わず身を乗り出す王泥喜。一体あの公園は何人の人間の血を吸っているのか。
「……あの公園で殺人事件が起こるのはマコくんが疑われた事件を含めて、これで2度目ッス。そう言えば、自殺か事故か分からないのは何度かあったッス」
「……もういいです」
王泥喜は深く突っ込んだことを後悔した。裁判長が静かに言い放つ。
「今の尋問もある意味怪奇現象なのかも知れません。……では、証言を続けてください」
「
警察が駆けつけた時、そこにいたのは被害者の死体と被告、被告を取り押さえている証人だけだったッス」
「待った!そのときの様子はどうでしたか?」
「証人が被告人をがっちりと押さえ付けていたらしいッス。何というか、間接的な感じで……」
「間接的?」
間接的に押さえつけるとはどのような意味だろうか。何か、道具でも使ってと言うことか。
「何というか……、コブラツイストとか4の字固めとか……」
「ああ、関節技ですか」
「そーッス!それッス!」
(間接的に取り押さえるってのは難しそうだもんなぁ)
「取り押さえられていた場所は死体の側ですか?」
「そッス。被告は終始自分じゃないと喚いていたそうッス」
「綿密な計画を立ててまで自らの犯行を隠そうとしていたのですから、当然そう言うでしょうなぁ」
亜内の言葉に裁判長は頷く。
「確かに。では、その周りの状況はどうでした?」
つづく

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