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第1話 逆転新世代(45)
尋問・被害者との関係
「
被害者のことは知っていたが、公園でたまに見かけるくらいだよ」
「待った!どのくらいの頻度で見かけましたか?」
「週に一度くらいだったな。もっと来てはいたんだろうが、時間が合わなかったり、場所が悪くて遇わなかったりもしてただろう」
「いつ頃から被害者を公園で見かけるようになったか覚えていますか?」
「去年の春くらいだったと思うぜ。その前は見かけなかった。あいつが来るようになるまでは、あの公園は本当に誰も来なかったよな」
(被害者が異動で引っ越した時期と一致……か。矛盾はない)
「あそこの公園、ポリ公が殺されたことがあるって話で、ポリ公も人もあまり来なかったからな。公園では被害者くらいしか見かけなかったよ」
(……確かに、そうなんだよな。となると、ちょっと気になることが。聞いてみるべきか……)
「証人。なぜ、そんな曰くのある公園をわざわざ通るコースを選んだんですか?」
「言っただろ?ポリ公は嫌いだって。ポリ公が来ない場所だから選んだんだよ」
横にいたマコは険しい顔で呟く。
「うう……腹立つッスね」
(マコさん……元ポリ公……もとい、婦人警官だったっけな……)
「
話をしたことはないね。挨拶さえしたことないぜ」
「待った!挨拶は、もちろんあの……」
みんな元気かマッチョッチョ、俺も元気さマッチョッチョ。
「あれはガキ相手にしかやらねえよ。当たり前だろ」
とりあえず、論点はそこではない。
「……そんなにしょっちゅう見かけていて、話をすることもなかったんですか?」
「それじゃあんた何か?通勤通学で毎日すれ違っている人とはみんな話したことがあるのか?」
マッチョ・ストロングは王泥喜に詰め寄る。
「いえ、さすがにそれは……」
「同じ事だ。まして相手は男だしな。わざわざ声をかけたくもねえ」
王泥喜は、マッチョ・ストロングに尋ねる。
「女性だったら声をかけていたかも知れない……?」
「美女だったらな!このボディで誘惑するぜ!」
筋肉を見せつけるマッチョ・ストロング。
(あそこまでマッチョだと、女性は却って引くんだよな……。ソフトマッチョくらいがいいと思うんだけど)
関係ないが、なるほど先生は結構なソフトマッチョだ。自分もかくあるべきだろうか。王泥喜は少し思い悩んだ。
「
あっちだって、マスクを着けた怪しい男なんて声もかけたくないだろ?」
「待った!証人!……自分で怪しいという自覚があるのに、マスクを着けて出歩いてたんですか」
王泥喜は厳しく指摘する。が、自分でもどうでもいい指摘だと後から思う。
「そりゃ……覆面レスラーだからなぁ。怪しい感じかも知れないが、正体を知られるわけにはいかないんだ」
「正体を知られる以前に、その……マッチョ・ストロングっていうレスラーは、世間には知られていたんですか?」
「そりゃあ、お前!近所には5人もファンがいるんだぜ?ダイスケくんにタケシくん、アイちゃんにユミちゃんにカツオくん」
「……今日、法廷を見に来ている子供たちですか」
「その通りだ!」
どうだと言わんばかりに筋肉を見せつけるマッチョだが、それはつまり。
(ファンは、あの子供たちで全部か……)
亜内検事はいう。
「まあ、先程明らかになった証人の生活状況……。知名度を考えれば納得できます」
実質、『自称』プロレスラーと言ってもいいレベルの知名度だったようだ。
「その覆面はずっと前から?」
「……いや。1年くらい前からだよ。その頃は本当に人気がなくてさ。ちょっとでもインパクトをつけようと、マネージャーに提案したんだよ」
(そして……その甲斐はなかったみたいだ)
たった5人の子供のファン。それが“甲斐”であるかどうかは疑わしい所だ。
(証言には腑に落ちない所がある。まずは、その腑に落ちないところをはっきりさせるために、あの事実を突きつけてみよう……!)
つづく

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