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第2話 逆転ブレンド(4)
7月13日 午後6時51分 留置場第2面会室
留置場の面会室に座ると、成歩堂の目の前になにかが滑ってきた。それは、コーヒーの注がれたマグカップだった。
王泥喜、マコの前にもそれぞれカップが滑ってくる。一体どこからこのカップは出てきたのだろうか。と言うか、面会室で飲食はできなかったような気がするのだが、思い違いだろうか……。糸鋸刑事の弁当を届けたこともあったので、思い違いなのかも知れない。
扉が開き、容疑者が入ってきた。赤い光を放つ仮面も、その立ち姿も、凄まじい威圧感を放っている。相変わらずのようだ。
「クッ……。マコのことだ、アンタを呼ぶと思っていたぜ。……久しぶりだな、まるほどう」
「なるほどうです。……お久しぶりです、ゴドー検事」
ゴドー。かつては検事として、法廷で成歩堂と激しく戦った男だ。その頃は成歩堂に深い憎しみを抱いていたが、今はその憎しみは消えている。
「俺はもう検事でも、まして弁護士でもねえ。今の俺は、ムショ帰りのしがないコーヒーショップのマスター……だぜ」
マスター・ゴドーは面会席に着いた。どこからともなくコーヒーが滑ってきた。
「まさか、久々の再会がこんな形になるとは思いませんでした。……一体、何があったんです?」
「さあな……。一つ間違いなく言えるのは、俺が出したカップの中の闇……。その死角に、刺客が潜んでいた……それだけだぜ」
そう言いながら、カップの中の闇を口に含むゴドー。成歩堂は言う。
「……あの。よく分かりません」
「お店でコーヒーを飲んだお客さんが突然苦しみだして、運ばれた病院で死んでしまったッス。どうやら、毒がコーヒーに入っていたみたいッス」
マコが分かり易く教えてくれた。
「ところで……見慣れない顔がいるようだな。アンタ……、まるほどうのなんなのさ!」
ゴドーは王泥喜の方を見ながらマグカップでかつんと面会室の机を叩いた。その言葉を聞いた成歩堂の脳裏に、とある人物の顔が浮かんだ。
(……なぜだろう。今、一瞬矢張の顔が浮かんだけど……)
「あ、あのっ!俺、王泥喜法介です!弁護士です!」
「彼は、僕の助手……弟子ですよ。千尋さんに対する、僕と同じです」
成歩堂の言葉に、ゴドーは遠くを見つめるようなそぶりを見せた。仮面の下の表情までは見る事ができないが。
「クッ……。思い出させやがって。つまり、俺に対する千尋みたいなものか……」
ゴドーはかつて弁護士だった。そして、成歩堂の師匠だった綾里千尋の事務所の先輩に当たる人物だった。
「なかなか依頼も来ませんし、弁護士は僕一人で十分なんですけど……。色々と事情があるんです」
「人は誰しも事情を抱えているのさ……。それはそっと胸の奥に仕舞っておくことだ、まるほどう」
そう言い、ゴドーはコーヒーを飲み干した。
(別に、話せないような事情じゃないから話してもいいんだけどね……)
ひとまず、色々と話を聞いてみた方が良さそうだ。
・事件について
・ギルティについて
・ゴドーについて
つづく

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