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第2話 逆転ブレンド(30)
尋問中
「
五十嵐さんはじっとこっちを見てました」
「待った!……じっと……ですか?」
成歩堂の言葉に、マコはにこやかに答える。
「そッス!じっくりと、舐めるようにッス!五十嵐さん、手は出しませんし、見られるだけなら慣れたもんッス!」
にこやかに言うようなことではない気はする。成歩堂はさらに掘り下げた。
「慣れるほど、じっくりと見られ続けたわけですか」
御剣検事が素早く異議を唱えてきた。
「異議あり!この法廷はギルティで起きた殺人事件についての審理だ!ちょっとエッチなご老人がウェイトレスにしたことについての議論をする場ではない!」
「異議を認めます。弁護人は人の趣味をあれこれ言わないように!」
(ご老人がエッチな趣味を持っているのは別にいいのか……)
いいのだろう。どうでも。
「
被害者に最後のコーヒーを運んでからしばらく経った後……」
「待った!具体的にどのくらいあとか分かりますか?」
「20分ッス。あたし、コーヒーを運んだ時と、被害者さんが倒れた時、時計を見たッス!大体きっかり20分経ってたッス!」
(大体なのか、きっかりなのかがはっきりしないけど……。)
「被害者はその間、コーヒーを飲まなかったのでしょうか?」
成歩堂の問いかけに、御剣が口を挟んできた。
「即効性とは言え、毒が効果を現すまで十数分は掛かる。つまり、倒れる10分以上前に口を付けたと考えるのが妥当だろう」
「そう言えば。お客さんが席に戻った時、コーヒーに口を付けた記憶があるッス!」
つまり、その時点で既にコーヒーには毒が入っていたと言うことだ。
「コーヒーを飲み干してから10分あまり……。被害者は店で何をしていたんですか?」
成歩堂の問いに、マコは申し訳なさそうに言う。
「それがその……。伝票の計算をしたりオジサンのカップを片付けたりしてたんで、よく見てなかったッス」
被害者が帰るでもなく、新たに注文するでもなく、一人で店の中にいた理由は気になるが、マコにそれを聞いても仕方がない。
「
被害者はうめき声を上げてテーブルに突っ伏したッス!」
「待った!その時のこと、よく思い出してください!」
マコは腕組みしながら考える。
「被害者さんも注文してこなくなって、そろそろ帰るのかと思ったので、伝票の準備をし始めたッス。あたしは伝票と電卓を交互に見てて……」
「つまり、その時の被害者は見ていなかった……」
「そッス。その時はお客さんの方は見てなかったッス。そしたら、突然呻き声と物音がして……。見たらお客さんが苦しそうに!それで、まずは何より……」
「
アタシは、とにかくマスターに知らせて、救急車を呼んだッス!」
「待った!その時、マスター……被告人は店の奥にいたんですね?」
マコは敬礼しながら言う。
「そッス!あまり見かけないお客さんが来ると、マスターは店の奥に隠れるッス!」
「ぬううううう……!分かりますぞ!シャイ、と言う奴ですな!」
「うーん。ちょっと違うと思うッス。でも、まあ似たようなものかも知れないッス。で、マスターに言われて携帯電話で救急車を……。あ。あああっ!」
マコは突然大きな声を出した。驚いた顔をするようなマコだが、むしろその声に誰もが驚いた。裁判官が問いかける。
「ど、どうしました、証人!」
「あたし……忘れてたッス!あの時、携帯電話のカメラで写真を撮ったッス!」
「な、なんだと!」
これは御剣も初耳だったようだ。それもそのはず、撮った本人が今の今まで忘れていたのだから無理もない。成歩堂も身を乗り出しながら問いつめる。
「なんの写真を撮ったのですか!?」
「その……被害者さんッス!テーブルに突っ伏して呻いてる被害者さんを見ていたら、元婦警の血が今更ながらに騒いできたッス!それで、思わず現場写真を……!今思えば、その時はまだ被害者はまだ存命でしたから、ちょっと失礼だったかも知れないッス……」
トレーを抱えながら俯くマコ。御剣はばんと机を叩いてマコに詰め寄る。
「とにかくッ!写真を見せていただこう!」
「了解ッス!」
現場写真を法廷記録にファイルしました。
(この写真……!もしかすると、さっきの証言の意味合いを大きく変えるかも知れない……!あの証言、もう一度ゆさぶってみよう!)
つづく

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