取説 はじめから この章の始めから このパートの始めから この前のシーンから
第2話 逆転ブレンド(102)
尋問・自白〜なぜカップに毒が?〜
「
鏡一さん、毒の干物を全部食べなかったんだと思います」
ミラはそう考えているようだが、その根拠はなんだろうか。成歩堂は問い詰めてみることにした。
「待った!なぜ全部食べなかったと思うんですか!」
「きっと、おいしくなかったんでしょう」
成歩堂はさらに問う。
「なぜおいしくなかったんですか!」
「
だって、さすがにその干物……味見までは出来ませんもの」
「待った!つまり、味見をしていないからまずい干物を渡してしまったって言う事ですよね。……証人、味見をしなかった理由を教えてください!」
成歩堂の言葉に、御剣は馬鹿にしたような顔をする。
「フッ……。弁護人は言うに事欠いて誰が考えても分かるようなことまで質問しているようだな。このような干物……味見をしたら死んでしまうではないか!」
「しかし、飲み込まずにすぐに吐き出せば死なずに済むのでは?」
成歩堂の指摘に、ミラは少し考えて言う。
「正直……そこまで気が回りませんでした。……よく思いつきますね」
「弁護人は常日頃からその場しのぎの出任せを言い続けている。殺害方法に関する咄嗟の時の着想力は極めて高いのだ。追い詰められると思いもよらぬ殺害の手口を思いつく……。恐ろしい男なのだ」
にこやかに飛んでもないことを言い出す御剣に、成歩堂は机を強く叩く。そして汗まみれになりながら反論した。
「誤解を招くような言い方しないでください!思いつくだけで実行はしませんから!」
裁判官は問いかける。
「で、どのようにしてコーヒーに毒を?」
「ぼくはやってない!」
成歩堂は机を叩きながら強く反論した。裁判官はかぶりを振る。
「証人に聞いたのです」
「証人。なぜカップから毒が検出されたのか。その考えを述べていただこう」
御剣の問いかけに、ミラは答えた。
「
食べかけでやめた干物を、コーヒーの入ったカップに捨てたんでしょう」
「待った!被害者は普段からそういう事を?」
成歩堂の問いかけに、ミラは頷く。
「はい。飲み残した缶ジュースにタバコをいれたり、食べ切れなかったハンバーガーを道端に捨てたり……」
やはり、根拠は日頃の行動と言うことのようだ。
「どうかと思いますな。食べ物を粗末に扱うと、いつか罰が当たりますぞ」
かぶりを振る裁判官。成歩堂は冷静にツッコミを入れる。
「……“いつか”はないと思います。何せ……“被害者”ですし」
「それもそうですな」
深く頷く裁判官。そんなやりとりを意に介さず、御剣が話を進めた。
「証人。カップの中にコーヒーは入っていなかった。カップに捨てたと考えている干物も同様だ。それはなぜだとお考えだろうか」
「
その後、それを忘れてコーヒーを飲んでしまった……そんなところかと」
「待った!その……干物のダシが利いたコーヒーを……飲んだというんですか!」
その味を想像すると、やはり汗まみれになってしまう成歩堂。しかし、ミラは事も無げに答える。
「はい」
「……いやいやいや!だって、おいしくないでしょう!」
果たして、論点はそこでいいのか。
「ええ。でも、コーヒーで干物を食べるような人ですから」
「ちょっといいだろうか。そのコーヒーに入れられた干物はどうなったのかが説明出来ていないではないか。どうなのだ、証人!」
御剣が鋭く指摘する。それにも、ミラは事も無げに答えた。
「コーヒーが染み込んで味が分からなくなったので……食べちゃったんじゃないでしょうか」
「クッ……!とことん胸の悪くなる話だぜ……!」
ゴドーのマスクが煙を吐き始めた。
裁判官はさっき無くしかけた木槌を打ち鳴らした。
「いかにして被害者の口に毒が入ったか……。そして、被害者の悪食ぶりがとてもよく分かる証言でしたな。検察側、弁護側どちらからも特に異論はないようです」
裁判官の言葉に、成歩堂は思う。
(異論がない訳じゃない。ただ、異論を突き付けるための証拠品がない……!)
どうやら、毒の付着したカップから嘘を暴く事はできないようだ。
先程成歩堂が指摘した矛盾を、うまいこと誤魔化してきた。おっとりとした見た目とは裏腹に、なかなかに機転は利くようだ。これからも、この調子で証言の矛盾のつじつま合わせを繰り返していくつもりか。しかし、いずれそのやり方では追いつめられるに決まっている。……長い戦いになるかも知れない。
「これはもう、彼女が犯人に間違いありませんな。しめやかに判決を言い渡しましょう」
そう思った矢先、終わってしまいそうになった。御剣は素早く机を叩き異議を差し挟んだ。
「異議あり!私はまだ納得したわけではない!それに、まだはっきりしていないことがあるではないか!……証人。毒を混入した方法に問題がないとして……だ。そのようにして手間をかけて毒を用意したというのなら、それは当然殺害計画だったということだな?」
「……はい」
冷静に答えるミラ。
「では、その計画がどのようなものだったのか、話していただこうッ!」
証言・自白〜殺害計画〜
とにかく、デートの最中にフグの干物を食べさせて殺す……
それが私の計画です。
食べさせる方法までは思いつきませんでした。
でも、手渡すチャンスさえあればいい……
だから紙にくるんだ干物を持ち歩いてました。
コーヒーを飲み始めたら、鏡一さんが何か食べたそうだったので、
別れ際に干物を渡して店を出たんです。
ゴドーは言う。
「きれい好きなマコのおかげで、証拠なんてどこにもないのさ。この証言……崩すつもりなら、もっと話を引き出すことだぜ……!」
つまり、ゴドーもこの証言について、特に問題は見つけられなかったと言うことだ。どんどんゆさぶっていくしかないようだ。
つづく

0