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第2話 逆転ブレンド(133)
「そんなもの、ありません!」
胸を張って言い切る成歩堂。裁判官は困ったような顔をした。
「……今までの議論は何だったのでしょう。どうかと思います。それでは判決を……」
「異議あり!どうかと思うのも判決も、まだ早いですよ?何も仕向けなくても、被害者は証人にタバコを差し出したとしたらどうでしょう?」
証人が被害者にタバコを出させたわけではない。被害者は何らかの理由があって、証人にタバコを差し出した。成歩堂の主張はそう言うことだった。
「弁護人。君はその理由なら提出することができる。そう言うことだな?」
御剣の言葉に成歩堂は深く頷く。
「その通りです!その理由とは……!」
ぼくの答えをしめそう
つづきは↓
成歩堂が示したのは、またしても先程ナミエから取った証言書だった。
「証人はタバコを吸わないという証言、ですか……」
裁判官はまだ少し合点がいかない感じだ。成歩堂は補足する。
「先程も問題になったように、証人はタバコを吸いません。その証人に成り代わっているのに、タバコを吸っては怪しまれる。だから、タバコを手放した……。手元に無ければ吸うに吸えませんからね!」
「なるほど。それは一理あるかも知れませんな。どんなに我慢しても、手元にあればついつい手が伸びてしまうかも知れません。手放すのは賢明な選択でしょうな」
裁判官は納得したようだが、御剣はまだ満足していないようだ。
「しかし、それならレシートはなぜ証人の手にあるのだ!」
「簡単なことです。一緒に手渡した……それだけですよ」
「だからその理由を聞いている!なんの必要があってレシートを手渡したのだ!」
確かに、被害者には証人にレシートを渡す必要があったとは思えない。……ならば、発想を逆転させるまで。手渡した理由を考えるのではなく、なぜ渡す必要もないレシートが証人の元に移動したのか。……今、まさに被害者から証人の手に移動した物のことを議論したところだ。それならば。
「目的があってレシートを手渡したワケじゃありません。被害者の行動を順を追って考えれば、ごく自然な答えが見えてきます。被害者は二つの商品をコンビニで購入した。そして、ごく普通にレシートを受け取った。……その時、レシートはどうしますか?」
成歩堂は裁判官に問いかける。
「……私なら、財布に入れますかな」
「被害者は……買った商品を入れた袋にレシートを入れたのでしょう。それらの商品を袋ごと手渡したなら……?」
「確かに……レシートも証人に移動します!」
裁判官は頷いた。その時、今まで黙っていた鏡二が口を開く。
「待ってくださいよ。大事なことを一つ忘れてるんじゃないですか。俺はその現場から離れたコンビニで買い物をしてるんです。どうやって現場に移動したんですか」
「確かに、徒歩では到底間に合わないだろうな」
含みのある御剣の発言。成歩堂は口を挟む。
「徒歩では……ですか?」
「証人は自動車やバイク、自転車などと言った乗り物を所持していない。タクシーを利用した形跡もない。該当する時間に利用できそうな交通機関もない。徒歩以外に移動手段はなかったのだよ。つまり、コンビニで買い物したのが被害者であれ証人であれ、現場まで移動することはできなかった。……まだ反論できるだろうか?」
どうやら念押しのための前フリだったようだ。余計なツッコミで証人が現場に行くことが出来ないという印象を強めてしまった。
「ううん……反論はありません……」
成歩堂が黙ったところで、御剣は満足げに話を進める。
「フッ……。では、次に進もう。弁護人は証人と被害者の入れ替わりがあった理由について、証人・須潟美羅と交際関係にあったのは被害者ではなく証人であると主張している。そのような事実があったかどうか、証言していただこう」
証言・ミラとの関係
その人は兄貴の彼女ですか。見たことも聞いたこともないですね。
証言が終わり、裁判官は言う。
「随分と簡潔な証言ですね。それでは弁護人、尋問をお願いします」
(……知らない……?果たしてそうだろうか?まずは、知る機会があったことから示すんだ!)
つづく

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