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第2話 逆転ブレンド(140)
成歩堂は、被害者の携帯電話にミラの番号が登録されていなかった理由について、その考えを述べる。
「被害者に彼女の電話番号をわざわざ自分の携帯のメモリーから消す理由はないでしょう。他の誰かが証拠隠滅のために消したということも考えにくい。……そんなことをする余裕があるなら、持ち去った方が簡単ですからね。それならば、最初から登録されていなかったと考えるのが自然でしょう」
顎をさすりながら一つずつ可能性を潰し、最後に応えと思われる理由を浮かび上がらせた。だが、その可能性について御剣は反論する。
「異議あり!証人は登録されていたと証言しているのだ!」
「その証言が、もしも嘘だったとしたら!?」
机を叩きながら力強く主張する成歩堂、御剣も机を叩き言い返す。
「馬鹿馬鹿しい!一体なぜ、そんな嘘をつく必要があるというのだ!」
「理由は簡単ですよ。ミラさんが付き合っていた相手……それは被害者じゃなく、証人……あなただった!違いますか!」
そう言い、鏡二に指をつきつける成歩堂。鏡二は相変わらずの落ち着いた表情だが、目を合わせようとはしない。僅かな焦りを感じた。
「なんの証拠があってそんなことを言うんですか?確かに俺は彼女と同じ大学に通っている。でも、それだけですよ。たまたま兄貴がナンパした子が、俺と同じ大学に通っていただけです」
「確かに、決定的な証拠はまだ見つかっていません。しかし……ギルティでミラさんとコーヒーを飲みながら語らっていた“被害者”があなただった……その可能性に繋がる証拠は多数見つかっています。例えば、ウェイトレスが目にした腕時計、常連客が見た携帯電話……」
成歩堂の言葉を遮るように鏡二が言う。表情からも余裕が失われてきているのを感じた。
「でも、彼女は兄貴と付き合っている。そう認めたんですよね?何を疑う必要があるんです?」
「弁護人は先程から証人と彼女に関係があり、被害者は彼女との関係性が薄かったと主張しているが、それならば被害者はなぜ現場にいたのだ?」
御剣が口を挟んだ。反論。そのように見えて、さらに飛躍した考えを述べるための下地を作ってくれたようだ。
「それを説明できるかも知れない、一つの情報があります。高井ナミエさん、以前は証人のカノジョで、今は被害者のカノジョという人物です。ナミエさんが被害者に乗り換えるきっかけとなったのは、被害者が証人のフリをして近付いたことです。そうして何度か接触しているうちに、いつの間にか乗り換えられてしまった……。それと同じ事が、あの喫茶店でも起ころうとしていたとしたら!」
そう言い、机を叩く成歩堂。充気味負けじと机を叩いて言い返す。
「つまり、被害者が窓から店内に侵入したのは、店内にいた証人と入れ替わるため、そう主張するわけだな、弁護人」
「その通りです!その可能性を示す物証もいくつか見つかっていましたね」
「……窓の下の壁につけられた足跡と、踏み台にされたらしいゴミ箱ですな」
いいところで裁判官が割り込んできた。なかなかにおいしいところを持っていってくれる。
「フッ……確かに、そのようなことが起こっていた可能性は否定できないようだ。しかし!この入れ替わりには証人の協力が不可欠なのだよ。証人がトイレに入り、窓から入れ替わりで出なければならない。……証人に、そのようなことに協力しなければならない理由があったのだろうか?そんなことをすればカノジョがとられてしまうではないか!」
御剣の追及に、成歩堂は反撃した。
「……忘れたんですか?そうならないための予防線は張ってあったじゃないですか!入れ替わる時には既に、ミラさんは店を出ていたんです。被害者とは会うこともなく……!」
「ちょっと待ってくださいよ。随分好き勝手なことを言ってますけど……そんなことがあったって言う物的証拠はあるんですか」
鏡二が再び割り込んできた。かなり余裕が無くなってきているようだ。この調子で押していけば、この余裕の態度も崩れてくるのではないだろうか。ここで、さらに一撃を加えてやろう。成歩堂は一つの証拠品をつきつける。
「……被害者はあなたに成り代わるために準備をしていました。それについては証拠品もありますよ!」
ぼくの答えを示そう
つづく

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