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第3話 あるまじき逆転(21)
ステージ裏の事件現場で、なんと言っても目に付くのは血溜まりと被害者の姿をかたどったロープだ。死体はすでに解剖に回されており、実際に被害者がどんな姿だったのか……倒れ方はうつ伏せか仰向けかなどといったことは窺い知ることができない。
凶器もすでに持ち去られ、分析に回されているようだ。実際、見るところなどもうほとんどなさそうだ。見張りさえいなくなるのも納得できる。
「ずいぶん片付いた事件現場だなあ。争った形跡も見あたらないし……。頭に不意打ちで一撃を加え、動けなくなったところにトドメを……ってとこかな」
不意打ちであれば、みぬきのような非力な少女でも屈強な被害者を殺害できる……。逆に言えば、みぬき以外の誰かでも殺害は可能だっただろう。
(この現場について、ポランさんにも意見を聞いてみよう)
聞き込み項目追加
・事件現場
・事件現場
「ポランさん。現場を見て何か気付いたことはありませんか?」
王泥喜は、ごく自然に何気なく聞いてみた。
「な。何にもありませんとも!!」
ポランはごく不自然に力強く答えた。
「……隠し事は苦手なタイプですか?こっちを見て答えてください。横を向いていても分かるくらい目も泳いでますし。そもそも声がうわずってますよ」
必死に目を逸らそうとするポランの前に回り込みながら問い詰める。さらに横を向くポラン。二人は回り始めた。
「うるさいなあ。女の子には秘密がいっぱいなんです。特にマジシャンには!」
「女の子の秘密のせいでみぬきさんが父親殺しの罪を着せられてもいいんですか。協力してくださいよ」
その一言で、回転は止まった。
「うう。そうなったら私のせいってことですよね……。それはやだな。分かりました、白状します……。なんかここ、ずいぶん片付いてるなって……」
「……それは見れば分かります」
この現場を見た時の第一印象も、“何もないな”だった。実にガランとしている。
「ここは機材置き場として使ってて……トリックの種がぎっしり詰まってるはずなんです。いわば乙女と或真敷の秘密の花園です!」
乙女はあまり関係ないような気はするのだが、それでも。
「なんかその……そう言われると覗きたくなりますね。……あれ、でも片付いてますよ」
「え、ええ。こんなじゃ今日のショーはできませんね」
「もしかして……誰かが片付けたんじゃ……。たとえば、真犯人……とか!」
「そうかもしれませんね」
「ここにあったものを片付けなきゃならないような事情のある人物……か。どうですか、ポランさん。心当たりは……」
「え。あ、その。うーんとえーと。こ、心当たりはありません」
「……ものすごい勢いで目が泳いでますケド」
「う、うるさいなあ。いいでしょ、暑いんだから泳ぐくらい!」
「今日はわりと涼しいですよね。ここは特に。……心当たりがあるんですね!」
「うう。だって……。ここ、或真敷の奇術の秘密がこれでもかってくらいに詰め込まれてた場所なんですよ?それこそ、座員でも限られた人以外は立ち入り禁止になってるくらいです。私だって、こことお風呂のどっちを弁護士さん覗かれたくないか選べっていわれたら……何のためらいもなくここって答えます!」
「異議ありッ!オレがお風呂を覗くような人間だと思われてるなら……心外ですッ!」
ポランが妙な例を挙げたせいで論点がずれてきた。とにかく、ここは調べられたくない場所だったようだ。だからこそ、こうしてわざわざ調査の様子を見に来たのだろう。
聞き込み項目追加
・秘密の花園
・からっぽの舞台裏
つづく

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