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第3話 あるまじき逆転(44)
尋問中
「
死体は舞台裏で発見されました。死因は失血によるショック死」
王泥喜には死体を直接調べたりすることは出来ない。警察側から提示される情報が全てだ。揺さぶって出来るだけ多くの情報を引き出さなければならない。
「待った!剣による傷によるものですよね?」
「もちろんそうよ。剣は被害者の胸に真っ直ぐ突き刺さり、大動脈を損傷。大量の出血のために被害者は死亡したってわけです」
「となると……刺されてから死亡までには少し時間があったはずですね。ダイイング・メッセージのようなものは残されていなかったんですか?」
正面から刺されたのならば、当然被害者も犯人を見ているはず。
「残念ながら。……被害者は鉄パイプの一撃で頭にも衝撃を受けていて、そのために昏倒していたようです。現場には被害者がもがいたような痕跡はなく、ほとんど身動きもせずに死んでいったことを表しています。被害者がしたことは、せいぜいその胸に突き刺さっていた剣を引き抜いたことくらいですね」
ゆさぶったおかげか、新しい情報がちらほら出始まってきた。さらに掘り下げていきたいところだ。
「剣を引き抜いた……?」
「被害者は薄れゆく意識の中で、最後の力を振り絞り自分の胸に突き刺さっていた剣を引き抜き、投げ捨てました。被害者の手にはその時に付いた血が、剣には手の跡が残っています。……ある意味、この行動が死を早めてしまった形になりますね。引き抜かれるまで、剣は栓の代わりをしていましたから……」
(何かありそうだな……。覚えておこう)
凶器の剣のデータを書き換えました。
王泥喜がメモをとっている間にも茜は話を続ける。
「剣を体から引き抜いたところで……力尽き、意識を失ったんでしょう。そのままの姿で発見されています」
「分かりました。死体発見について証言をお願いします」
裁判長に促され、茜は証言を続ける。
「
通報が10時42分にあり、駆けつけたところ死亡を確認」
「待った!通報は一体誰が……?」
目撃者は二人と聞いているが、思えばそのどちらが通報の電話を掛けたのかはまだはっきりしていなかったはずだ。昨日、チャランからは口止めを理由に聞かせてもらえなかったせいだが。
「或真敷バラン氏です。発見は或真敷チャラン氏と一緒でした。通報はバラン氏の持っていた携帯電話によりその場で速やかに行われ、救急車と警察が駆けつけました」
「ほう。速やかに……ですか」
裁判長が食いついた。
「ええ。死体を発見して、慌てて電話をかけたらしいですね」
「大変よい心がけですな。私などは、携帯電話を掛けるにも一苦労です。速やかにとはなかなかいきませんな」
(裁判長は事件の第一発見者になったら、通報が遅れてアリバイ工作を疑われるタイプだな……)
余計なことを考える王泥喜。気を取り直して、この話をもう少し掘り下げることにした。
「通報から警察が駆けつけるまでの時間は……?」
「10分はかかってないはずよ。うちの警察は早く駆けつけることと早く引き上げることについては定評があるから」
頼りになりそうなのかならなそうなのか、よく分からない警察だ。王泥喜は昨日のことを思い出した。
「そう言えば、昨日現場に行ったときにはもう宝月刑事しかいませんでしたね」
「そうなのよ。刑事とはいえ、女の子よ、あたし。女の子を一人殺人事件の現場に置いてくなんて信じられなくない?」
牙琉検事がその言葉を遮るようにドンと後ろの壁を叩いた。
「愚痴なら後にして事件のことを話してくれないかな」
「はーい」
明らかに不機嫌な顔だが素直に返事をする宝月刑事。
「それでは、証言を続けてください!」
「
致命傷は剣による一撃でしたが、頭部にも殴打された跡がありました」
「待った!それは刺される前で間違いないんですね?」
「それはいまいちはっきりしてないわ。ただ、打撲痕に生活反応があったから死亡する前であることは確かね。犯人はまず鉄パイプで殴って動きを封じて、剣で刺した……そんなところかしら」
王泥喜は言う。
「それは……」
俺の答えを示すんだ!
・それはごもっとも
・それはおかしい
つづく

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