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第3話 あるまじき逆転(53)
・文体
このメールについて、何か気になるところ。その質問に答えるなら、まず何はともあれこれだ。
「ええと。いったい……いったい何なんですか、この……珍妙な文体は!」
王泥喜の言葉に裁判長も深く頷いた。
「私も気になっておりました。これはどういうことなのですか!説明してください!」
そんなに厳しく問い詰めるほどのことではない気はするが。チャランも、そんなに気負った感じではなく普通に答える。
「えーと。どうって言われてもなぁ。いつもこんな感じだし」
「事実は至ってシンプルだよ。この副座長さんはちょっと変わった人なんだ」
牙琉検事の横やりに、裁判長も納得した様子で頷いた。
「……まあ、文章を見れば一目瞭然ですな」
(本人の居ないところで言いたい放題だな……)
しかし、王泥喜にも異論はなかった。会ったことはないが、副座長は変な人だ。
「他に何か気になるところは?」
・時間
メールがやりとりされた時間について、確認してみることにした。
「メールを受け取った時間は10時9分ですよね」
「おっと。そいつはちょっちビミョーだぜ」
「え」
この程度のことについては、すんなりとその通りだという答えが返って来るものだと思っていた王泥喜は少し戸惑う。
「言ったろ?このメールが来たとき、おいら風呂にいたんだ。読んだのは風呂を出た後さ」
つまり、携帯電話にメールが届いた時間と、それを読んだ時間にはずれが生じていると言うことらしい。受け取った時間は明らかだ。それでは……。
「…メールを…読んだ時間は分かりますか?」
「うーん。わかんねーなぁ。メールを見て、すぐに副座長に折り返し電話を入れたのは覚えてるんだけど……」
厄介なことになった、と言う感じか。しかし、まだ手はある。
「それなら、その通話履歴を確認すればいいんじゃないですか?」
チャランは少し考えてから言った。
「それだ!あんた、頭いいな!」
(そう言われて悪い気はしないケド……。そのくらいのことは言われなくても気付いてほしいな)
王泥喜が心の中で呟いている間にも、確認が終わったようだ。
「折り返しの電話は10時23分だな。風呂を出たのも大体その時間だぜ。風呂を出たら携帯がチカチカしててさ。パンツもはかずにメールのチェックと折り返し電話をしたさ」
「パンツくらい穿きましょうよ」
「いいじゃん。向こうに見えるわけじゃなし」
確かに、いいと思う。どうでも。
いや、牙琉検事にとってはどうでもいい話でもなかったようだ。苛立たしげに口を挟む。
「ボクの立つ法廷で、パンツの話はしないで欲しいものだね。特に……男のパンツの話なんて論外さ」
(女のパンツならいいのか……?)
王泥喜は少しイヤなことを思い出してしまった。
とりあえず、この時間は覚えておくと何かの役に立つかもしれない。
チャランへのメールのデータを法廷記録にファイルしました。
「他に何か、このメールについて気になることはありますか?」
「そうですね……」
つづく

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