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第3話 あるまじき逆転(118)
ヒートアップする王泥喜とバランの議論に、ここで涼しい顔で牙琉検事が水を差した。
「それはどうかなぁ。確かに、姿を目撃されるという最悪のハプニングは起こってしまった。でも、もしかしたら自分以外の誰かだと勘違いしてくれたかも知れないよね。その可能性にかけて、予定通りに計画を実行した……。あり得ない話じゃないと思うけど?」
「異議あり!姿を目撃されたのがハプニング?ずっと被告人が現場にいたというのなら、証人を呼び出した電話も聞いているはずです!すぐに誰かが来るかも知れない、それが分かっているのに姿を目撃されたことがハプニングというのは苦しいです!」
暑苦しく反論する王泥喜。
「ねえ、オデコ君。被告人が手伝いを終えて帰ったって言うのはある意味本当だったのかも知れないよ。殺意を抱きながら……ね。怪しまれないように帰ったフリをして、裏手に戻ってきて身を潜めてチャンスを窺う……。証人への呼び出しの電話が被告人が離れた一瞬に掛けられたなら、被告人は電話のことを知らなくてもおかしくないよね?」
「そんなことはありません!犯行の機会を窺うべく様子を見ていたと言うならば、一度帰った被告人はすぐに現場付近に戻ってくるはずですよね?ですが……被告人の手伝いが終わったという時間は、被告人が聞いていなかったというその呼び出し電話の時間よりもだいぶ前のはずだ!呼び出し電話の前に被告人の受け取ったメールには、被害者から手伝いありがとうというメッセージが書かれています。その時点で手伝いは終わっていたと考えられます。さらに、あの絵文字だらけのメールを打ち込む時間も欲しいですし、そもそも帰らせてすぐに打つメールの内容でもない!」
強力な反論。……のはずだが。
「まあ、確かにそう考えるのが自然かも知れないけどね。でもさ。さっきぼくが言った、被告人が帰ったフリをして……って言う話も、結局は証拠もなにもないところでの想像でしかないんだよね」
空論に反論しても仕方がないと言うことだ。とにかく、何も証拠がないのだから。その一方で得られる物と言えば……やはり証言だ。牙琉検事は言う。
「証人達が犯人を目撃し、事件を発見し、通報した。その事実は揺るぎないよ。じゃあ、証人。事件発見時の君の相棒と合流するところから証言を続けてくれないかな」
「この法廷ではまさにあなたが相棒ですぞ、検事殿。共にその小癪な赤デコをギャフンと言わせましょうぞ!」
そう言い、ステッキをくるりと回すバラン。
(オレ、なんか福島の民芸品みたいにされちまったぞ……)
証言・あるまじき助っ人
見つからないように隠れていると、チャランから電話が。
私は何事もなかったかのように電話を受け、
チャランは会場へとやってきたのです。
そしてチャランはステージの上の被告人と対面……
チャランを見て被告人は逃げだし、
チャランはそれを軽い足取りで追う。
しかし、彼は闇という番人に阻まれたゆえ……
助っ人として名乗りを上げ、共に現場へと踏み込んだのです!
証言を聞き、裁判長は感慨深げに言った。
「……証人が、助っ人なのですね」
「とてもついさっきまで物陰に隠れて震え上がっていた人物とは思えないよね」
にこやかに牙琉検事が言うと、朗らかにバランが笑った。
「わはははははは。赤信号はみんなで渡れば怖くないのです!」
「それはちょっとどうかと思うけどね」
「さあ、赤デコもみんなでやっつけてしまいましょう!」
すっかり赤デコ呼ばわりの王泥喜がバランに立ち塞がる。
「一応、黄色信号も止まらなきゃいけないんですよ!簡単に進ませはしません!」
「交通ルールは守って欲しいなぁ。特に、いいオトナにはね」
彼が果たしていい大人かどうか……その真価を見極める尋問が、今まさに始まる。
つづく

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