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第3話 あるまじき逆転(162)
聞き込み中
・罪を着せた理由
バランが犯人か、そうでないのか。どっちであったとしても、バランがみぬきに罪を着せようと小細工を打ったのは疑いようのない事実だ。
バランはなぜそんなことをしなければならなかったのか。バランはその理由を語ってくれるだろうか。
「理由……ですか。それは実にシンプルな理由です。あの状況ではどう考えてもこのバランに疑いがかかる。どうやら、人によっては私が怪しく見えるようだ」
びしっとポーズを取るバラン。怪しい。王泥喜はバランに問いかける。
「オレ、よってる人なんでしょうかね」
「思う存分私に酔いしれるといいでしょう。とにかく。疑いがかけられ自由が奪われること……それだけは避けねばならなかったのですよ」
あっさりと口を開くバラン。だが、聞きたいことはまだある。
「捕まりたくないという気持ちは分かりますが……オレはみぬきさんに罪を着せた理由を聞いているんですよ!なぜ、彼女だったんですか!チャランさんじゃいけなかったんですか!」
何気に酷いことを言う王泥喜。
「もっとも罪を着せやすかったから……それ以上でも、以下でもありません。実に合理的な話です。しかし、決してこれはこのバラン一人が罪を逃れるためではないのです」
「というと?」
「今、この国の警察や司法は当てになるものではない……。司法の現場にいて、そう思うことはありませんかな?」
「う……」
手品師ごときに言われたくはないが、実際その通りだ。内部にいればこそ、そう身をもって感じる。現に、杜撰な捜査で犯人をでっち上げ、ろくな審理もせずに有罪判決が出る。現状の司法はそんな有様だ。
「とりあえず、誰かをスケープゴートに仕立て上げ、その間にこのバランが華麗且つ鮮やかに真相に辿り着く……。みぬき嬢はどちらにせよ、無実が証明されるのですよ」
「そう言いながら、全力でみぬきさんを犯人扱いしてたじゃないですか」
「それはもちろん、真相に辿り着くための時間稼ぎなのですよ。あの小癪な検事めが、このバランが真相に辿り着くことのないように身柄を拘束さえしなければ、今頃は……!」
恐ろしいことに、言い訳でも何でもなく本気でそう考えていそうな口ぶりだった。さらにバランは言う。
「あの検事が乗り出した時点で、正直嫌な予感はしましたがね。……検事どのは最初からこのバランを犯人だと踏んでいたようですな」
横でみぬきが考え込んでいる。
「バランさん、あの検事さんのこと、知ってるんですか?」
みぬきにとっては知らない人だが、バランが知っていることに疑問を抱いたようだ。だが。
「みぬき嬢。あなたも知っているはずですぞ。あの……思い出したくもない裁判のことを!」
「あっ。あの時の……?」
思い出したくもない裁判、と言うワードでピンと来たようだ。
「そうです。あの時の!」
二人で納得しているようだが、蚊帳の外に置かれては王泥喜としても困る。
「あの。オレにはどの時か全然分からないんですケド……」
このことについても話を聞いておいた方がいいかも知れない。
聞き込み項目追加
・牙琉検事の『あの時』
つづく

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