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第3話 あるまじき逆転(170)
現場を調べることも、関係者に話を聞くことも出来ない。ならば、せめてザックに聞けるだけ話を聞いておきたいところだ。だが、ここは面会室ではない。今は弁護を引き受けるかどうかを問われただけ、用が済んだとなれば、成歩堂は追い出されてしまう。
その前にせめてこれだけでも。そう思い、ザックに問いかける。
「ザックさん。ぼくの前に担当していた弁護士のことだけ、教えてもらえませんか」
だが、ザックは顔を伏せた。
「すまんが……彼をクビにした私の口から、その不名誉な名前を告げることは出来ないよ。これ以上、遺恨を残したくない」
ごもっともな話だった。自分が同じ立場だったとしても、放っておいて欲しいと思うことだろう。
しかし、こちらとしてもそんなことは言っていられない。なんとしても探り当ててやる。
裁判までに、少しでも多くの手がかりを掴んでおかなければならない。
同日 午後3時12分 警察署・エントランス
その間に何かできることはないか。成歩堂は一応何も残っていないだろう現場に行ってみようかとも思う。
そう思い動き始めた成歩堂は、警察署のロビーで見知った人物に出会った。相手も成歩堂の顔に、いやむしろ後ろ頭に気がついたらしく、声を掛けてきた。
「あっ。成歩堂さん!お久しぶりです!」
そう元気いっぱいに挨拶してきたのは、アメリカに留学しているはずの宝月茜だった。
「久しぶりだね、茜ちゃん。……留学してたんじゃないの?」
成歩堂は挨拶がてら、その心に浮かんが疑問を素直にぶつけてみた。
「それが……。この間日本にちょっと遊びに来たら、とんでもない事件が起きたんです!」
興奮気味に言う茜。他人事なので成歩堂は冷静だ。
「パスポートが盗まれた……とか?」
「そんな小規模な事件じゃありません!殺人事件ですよ、殺人事件!」
さすがに殺人となると他人事とは言え暢気に冷静に構えてもいられない。
「えっ。だ、誰が殺されたの?」
「私の知らない人です!」
「え」
茜の関係者が死んだわけではないので一安心だが、事件に巻き込まれでもしたのならそれはそれで大事だ。
「でも、その事件の捜査の指揮を御剣検事が執っていたんで、ちょっと捜査のお手伝いをしてみたり。そうこうしているうちに次から次へと御剣検事が事件に巻き込まれて……。私も大変だったんですよ、遠巻きに見てたり、たまに捜査を手伝ったり大活躍だったんですから!」
巻き込まれるどころか自分から首をつっこんだようだ。首をつっこまなければ大変にならなかったことだろう。やはり、行動がどこか真宵に似ている。
「色々おかしいところはあると思うけど、大変だったね」
成歩堂は話を流した。そして、実際に事件の話はそれで終わったようだ。大変だったねの一言で片付く程度の重大さか。
「……そうこうしているうちに、なんとなーく日本に居着いちゃいまして。やっぱり日本はいいですね!アメリカじゃなかなか捜査に首突っ込んだりできませんから」
「それが普通だと思うよ。ところで……さっきから気になるんだけど、その子は?」
茜は一人でいるわけではなかった。おとなしくしているが、見慣れない女の子が一緒にいる。
「この子はね、イトノコさんにちょっとの間だけ面倒見てくれって頼まれてるんです」
小さな女の子は、成歩堂の方にぺこりと頭を下げた。
「こんにちは。ななふしみぬきです」
「奈々伏……って言うことは」
或真敷ザックの本名が奈々伏影郎だということは、先ほど伝え聞いている。
「ザックさんの娘さん……かな」
「うん」
彼女は関係者だ。何か話が聞けるかも知れない。とは言え、小さな女の子だ。直接事件に関することはほとんど何も知らないだろう。それに、彼女の家族が大変になっている時だ。あまり深くも聞けない。それでも、話してみる価値はあるだろう。
聞き込み項目
・パパのこと
・或真敷天斎のこと
つづく

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