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第3話 あるまじき逆転(238)
尋問・偽の証拠品
「
このような形で証言する気はなかったのですが……」
「待った!どのような形で証言する気だったんですか!」
そこに成歩堂は突っかかった。ある意味、牙琉検事の出方を暴くことになる。
「事が事です。本来なら、人払いをしてもらった上で証言する……。そう言う約束でした」
そこで裁判長が口を挿む。
「しかし証人。先ほど調整を行った時、そのような要請は一切ありませんでしたな」
「ええ。まさか、ここまで大事になるとは思っておりませんでしたので……。私も腹をくくることにいたしました」
もう少しで偽証拠を裁判で使うことになっていたところだった成歩堂はその言い草にカチンと来てしまった。
「大事になると思っていなかった……?殺人事件の証拠品ですよ?偽造して大事にならないわけがないじゃないですか!」
机をドンと叩いて半ば恫喝する成歩堂。しかし、証人は余り動じてはいない。さすが、肝が据わっている。彼がもし殺人の真犯人として証言台に立ったなら案外手強いかも知れない。とにかく、偽証拠のことだ。
「作った時はそんなことは露ほども知りませんでしたとも。そんな暢気なポエムめいた別れの挨拶が、殺人事件と関わってるなんて……誰が思いますか」
「思う人がいてもいいじゃないですか!」
成歩堂は噛みつくが、裁判長はやんわりという。
「それはそうですな。しかし……私は思いません」
「私も……思いませんなぁ」
実際、偽の証拠だと言われて狼狽したほどだ。亜内検事がそう思っていないのは実証済みと言えた。そして、裁判長はダメ押しの質問をする。
「弁護人。あなたはこの文章だけを見て、殺人事件の証拠品だと思うのですか」
自分で言いだしたことだ。成歩堂にも意地がある。
「……これっぽっちも思わないと思います……」
この世には意地ではどうにもならないことはいくらでもあるのだ。
こんな代物だ。依頼を受けた時の絵瀬証人は当時を振り返りその時の状況を述べた。
「私も、妙に気前のいい仕事だと思って気楽に引き受けてしまったのです。そう……」
証人はそこで一旦言葉を切る。
「
その日記のページは私が作ったものです」
「待った!それを証明することはできるんですか?」
いっそのこと、最初に牙琉検事が提出した手記の方こそ偽物でこのページが本物などと言う大逆転は起こらないものだろうか。起こるはずもないが。
「簡単です。その紙を下の方から見てください。あるところで……「土」の文字が浮かび上がってくるはずです」
「そんなバカな……ッて、あああっ!」
半信半疑で言われた通りにしてみた成歩堂は、驚きのあまり声を上げた。
「な、成歩堂くん、どうしました!?まさか……本当に……」
「み、見えました……。『土』の文字が!」
今まで散々こねくり回してみてきたというのに、初めて気がついた。ページ全体の文字の濃淡が土という字を浮かび上がらせていた。むしろ、大きすぎて気付かないのだろう。
「何と!……私にも見せてください!……おお、これは確かに『土』の文字……そしてこれは……ちょっと楽しいです!ちょっとしたマジックのようです!」
裁判長は証拠品で遊び始めた。そして、被告人席のザックがマジックという言葉に反応して闘志の炎を燃やし始めている。落ち着いて欲しいものだ。
一方、証人は相変わらず落ち着き払っている。
「そのマークが、私の創作物であるという証拠です」
つづく

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