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第3話 あるまじき逆転(253)
真犯人と目される証人が逃亡を図ったことで騒然となる法廷。成歩堂ですら狼狽えるしかない状況の中、茜は自分のすべき事を的確に行う。
「と、とりあえず!……ドアの取っ手の指紋を採取しておきます」
或真敷バランは……手袋をしていたような。そもそも、手袋をしていなかったとして、バランが逃げた扉の取っ手にバランの指紋が残っていたからと言ってなんだというのか。
「何の意味もないよ……」
やっぱり混乱していたようだ。そして、ドアの近くにいた茜は、真っ先にそれを目にすることになる。
「あれ。戻ってきましたよ」
「ひいやああああ。命ばかりはお許しをっ!」
素っ頓狂な声を上げながら、或真敷バランが法廷から逃げ出した時の5倍くらいの勢いで駆け戻ってきた。
「或真敷ザック!床にハラバイになり、手をアタマの上に置きなさいいッ!」
そして、逃亡者の名前を盛大に間違えながら、係官が拡声器越しに絶叫しながら法廷に突入してきた。成歩堂はその人物をどこかで見た気がした。茜もそうであるようだ。そう言えば、茜の関わった事件の……関係者だった気がする。よく覚えていないと言うことは、対して関わっていないか、思い出したくもないから記憶に鍵がかかっているか。雰囲気からして、間違いなく後者だろう。
「なるほどさん、あの人見たことある気がします!……ごく最近を含めて2回ほど!」
「それは……ついてないね」
どうやら茜は成歩堂に比べるともう少し記憶が鮮明なようだ。
係官は手に持つ拳銃をバランに向けている。その目はバランを見据えるでもなく明後日を向き、そもそも堅く閉じられていた。それで撃つわけではないだろうと思ったが成歩堂だが、甘かった。
「今すぐ武器を捨てないと、はっ……はっ……発砲するでありますからしてえええええ!発砲しまああああす!」
武器など最初から持っていないが、勢いに任せて引き金が引かれた。ぱちんぱちんと撃鉄の音がして、二発の銃弾がバランに向かって放物線を描いてゆるゆると飛んでいく。
「あれ、銀玉鉄砲ですよね?初めて見ました!」
眼前で始める銃撃戦に興奮気味の茜。
「なんなんだい、そのおもちゃの鉄砲は」
眼前で始まる茶番劇に呆れ気味の牙琉検事。係官は敬礼する。
「本官、警官をクビになっても銃を携行していないと不安でありますからして本官っ!」
こんな警官が銃を携行していたとあっては不安で仕方ない。そうこうしている間にもバランは取り押さえられた。
「……あまり君の相手はしたくないから下がっていいよ。ご苦労だったね」
爽やかに、清々しい気持ちで言い放つ牙琉検事。
「ハッ!本官あまり怒られずに帰れるというのは珍しいことでありますからしてコレ」
「余計なことは言わずにさっさと帰った方がいいと思いますよ」
「本官、了解でありますからして本官ッ!」
成歩堂のダメ押しで係官は法廷から出て行った。ほっとしつつ、牙琉検事はまとめに入る。
「それじゃ、この偽りと茶番だらけのくだらないステージのアンコールも済んだようだし、フィナーレといこうか」
裁判長は頷き、その続きを引き受けた。
「被告人の犯行を裏付けるものとされていた証拠の数々は証人によって偽装されたものであることが判明し、検察側は被告人の立件事由を証明する手段を失いました。もはやこれ以上の審理に必要性を感じません。判決を下します!」
下された判決はもちろん無罪判決だった。
つづく

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