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第3話 あるまじき逆転(269)
同日某時刻 留置所面会室
「ここに来たということは……この大スターとの歓談をお望みですかな」
開口一番のバランの言葉に、王泥喜は冷静につっこんだ。
「そんなわけないでしょう。確認したい事がいくつかあるんですよ」
「まあ、なんでもよいのです。あのおっかない刑事と話すよりいいですからな。昨日と全然態度が違いますぞ!まるで冗談が通じないのです!」
ステッキを握りしめ、怯え出すバラン。
「そりゃあ、目撃者から犯人になれば態度も変わるでしょう。それより、現場やその周辺で見つけた証拠品について話を聞かせてください」
いろいろつきつけてみよう。
・串刺しマジックの剣
「あの、みぬきさんに濡れ衣を着せるために使った串刺しマジックの剣なんですけど」
王泥喜がそう切り出すと、バランは帽子を目深にかぶり直した。
「あのそのことなら十分反省しておりますのであんまり蒸し返さないでいただけますかな」
「そうもいきませんよ。このせいで事件がややこしくなっているんですから。それで、この剣があちこちから見つかってるんですケド、いったい何本あるんです?さっき隠し持っていたのはまだ持ってるんですよね」
バランは帽子を脱ぎ、手を差し入れ、引き出す。その手には。
「無論、このとおり」
先ほど見たままの串刺しマジックの剣が握られていた。
「取り調べで気付かれないんですか?帽子の中を調べられたら一発ですよね」
「調べてみますかな」
バランは帽子に剣を戻すと、王泥喜に帽子を差し出してきた。王泥喜は帽子の中を覗き込む。
「あれっ。何もないぞ」
「タネも仕掛けもありませんぞ」
バランは帽子の中から剣を取り出し、帽子の中にまた戻す。王泥喜はもう一度帽子の中を調べた。剣はない。
「あれえ?」
「そこにあることが分かっている弁護士殿でもそんな感じですからな。あるかまじきかも分からず調べる刑事には見つけられますまい」
高らかに笑うバラン。みぬきが口を挿む。
「みぬきのパンツと同じですよ。バランさんの帽子も小宇宙なんです!」
「それは違いますぞ、みぬき嬢。私の帽子は……大宇宙っ!」
大げさなポーズを取って言い放つバランだが。
「宇宙規模の大同小異ですね」
王泥喜はばっさりと切り捨てた。
「しかし、こんなものをいつまでもこんな物を隠し持っているのは些かストレスで胃にブラックホールが。弁護士殿に預けておくのもやぶさかではありません」
「そうですね、預かっておきます。しかし長いな、どうやって持ち歩こうか」
「みぬきのパンツなら入りますよ。いれておきましょうか」
「そうですね、お願いします」
串刺しマジックの剣が大宇宙から小宇宙にワープした。
「あの。これ、取り出したい時はどうするんですか」
「先生、みぬきのパンツの秘密を知りたいんですか?本当はみぬきの大切な人にだけしか教えないつもりでしたけど、先生になら教えてもいいです。みぬきのパンツの全てを!」
「それは遠慮しておきますね。でも、パンツの構造とか熟知してないと簡単に出し入れなんてできませんよね」
「それはもちろん」
「それじゃ、出す時はお願いできますか」
「はい!その時はパンツさえ出してくれればいつでも出しますね」
「できればパンツも自分で取りだして欲しいんですケド」
言うだけ無駄だろう。それにしても。
(いよいよもってこのパンツを手放せなくなってしまった)
つづく

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