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第3話 あるまじき逆転(283)
王泥喜はチャランがバランに電話で頼まれたであろう事について確認を取ってみることにした。
「裁判の時には話題になりませんでしたけど、時計を持ってくるように言われたそうですね」
「とけい?うーん、時計なぁ……」
考え込むチャラン。すわ、バランの話は嘘か勘違いだったのだろうか。
「バランさんの部屋に掛かってた壁時計なんですけど」
「あー。そういやそんなこともあったな」
さすがは集中して聞いてなかっただけのことはあってすっかり忘れていたようだ。とりあえず、そういう事実はあったようでほっとする。
「そうそう、最初はみぬきの部屋から掛け時計を持ってきてくれって言われたんだよ。部屋を見て誰もいなかったらこっそり部屋に忍び込んでってさ。誰もいない女の子の部屋に忍び込んで物色なんて変態っぽいこと出来っかよって言ってやったぜ」
「とことんまでみぬきさんに罪を擦り付けるつもりだったみたいですね」
依頼人とは言え、呆れ果てる王泥喜。みぬきは言う。
「みぬきの部屋、掛け時計ありませんよ。かわいい置き時計があるだけです」
「なんだ、そうなのか」
チャランは断って正解だった。成果もなく変態チックな行動だけをさせられるところだった。
「年頃の女の子の部屋ともなると、さすがに男どもには未知の世界だったみたいですね。……とりあえず、チャランさんもバランさんも普段からこっそりみぬきさんの部屋に忍び込んだりはしてないことははっきりしましたかね。みぬきさんの部屋の中のこと、知らないようですし」
「おいおい、やめてくれよ……。とにかく。イヤだっていったらおいらの部屋の掛け時計をもってこいって言うから、おいらの部屋には掛け時計なんてねえって言ってやったぜ」
「なるほど。部屋の時計は水時計ですか。さすがですね」
「何でそうなるんだよ。おいら、ナウい新人類だぜ?時間が知りたきゃケータイ見るわ」
若者の掛け時計離れは深刻なようだ。王泥喜は事務所の壁に掛かっている時計のことを思い出した。たとえ動いていなくても、掛かっているだけ立派と言えるだろう。多分。
「パパもいつも金ぴかの腕時計をつけてたから部屋に時計はありませんでしたね」
ザックも若者だった。
「それは……様になりますね。ついでですし、ポランさんの部屋には?」
みぬきとチャランがそれぞれ知っていることを述べた。
「ポラン姉さんの部屋はポスターだらけですね。掛け時計なんて記憶にないです」
「姫も現代っ子さ。いつもスマホかパソコンの画面を見てるぜ。掛け時計も置き時計も、腕時計さえも必要ねえな」
「それじゃ、宿舎にはあの無駄に黄色い悪趣味な時計しかなかったんですね」
みぬきは記憶を辿る。
「……かもしれません」
なんでよりにもよってあんな時計を、と思ってはいたがやむを得なかったようだ。
つづく

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