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第3話 あるまじき逆転(305)
「それで。こっちのトランプのマークですけど」
もはや忘れられていそうな、引き出しから見つかったトランプ。そのマークに見覚えがないかみぬきに聞いてみた。しかし、見覚えはないようだ。
「あの!そのマークなんですけれども!」
先程から全く発言がないのでやはり忘れられていそうな男が口を挟んできた。発言こそなかったが、王泥喜たちの様子を見ながら鼻をひくつかせたりメモを取ったり、視界の隅でせわしなく動いていたので王泥喜としては存在は忘れようにも忘れられないほどだったのだが。
「そのマークを見て思い出しましたよ。さっき言ったザック氏が最近よく通っていた店……名前はボルハチと言っていましたね」
確かに、このマークはVol.8、ボルハチとも読める。
「それならば、これは……」
王泥喜は机のノートを開きとあるページを開いた。日付とともに意味不明な文字と数字が並んでいるが、一番上にはカタカナでボルハチと書かれているようだ。であれば、その下に書かれている文字は勝負とやらの参加者の名前、数字は成績か。
「それじゃ、勝負でパパが一番勝ってて、一番負けてる人が犯人……とか?」
「うーん……成績をみた感じ、違うみたいですケド」
「それじゃ……いちばん勝っている人とパパがトラブってそれが元で恨みを買った……?」
(だとしたら……困ったことになるかもな)
常連参加者の中にはナルという人物がいる。王泥喜にはナルで思い当たる人物がいる。言うまでもなく成歩堂だ。
こんなところに脈絡もなく登場することがあるだろうか。残念ながら、脈絡はありそうだ。7年前の事件以来、繋がりはある。さらに、その時ポーカーでの勝負をして、ザックは人生で二度目の敗北を喫した。ロゴマーク付きのトランプがあるような店、勝負はやはりカードゲームだろう。7年前の因縁でつき合わされてもおかしなことではない。
だが、いちばん勝っているのはそのナルではない。全体的に横並びの好勝負の中、頭一つ分抜きんでている人物がいる。その略称はマヨだ。なるとセットになっているマヨ。やはり、王泥喜には心当たりがある。滅多に姿を見せないが事務所の副所長ということになっている綾里真宵だ。
その人物こそこの場に脈絡がないように思えるが、成歩堂とセットになっていれば話は別だ。真宵はかなりのミーハーだと聞いている。或真敷ザックのような有名人が成歩堂の知人だとなれば、自分も会いたいと言い出すのは目に見えている。加えて真宵はカードゲーム好き。有名人とのゲームと聞けば、混ぜろと言い出すに決まっている。
よもやこの二人に疑いがかかるような事態にはなって欲しくない。それよりも、勝負の常連はもう一人、正体不明のマサがいる。この人物なら可能性があるかもしれない。ボルハチ……足を運んでみよう。
ここで調べられることはこのくらいか。後は……やはり、7年前の事件の結末、そして真実を紐解いておくべきだろう。
「あ、いいですか。その、ワタシですけれども。……7年前の、隠された真実……なんですが。知っていますよ」
空気だけでその雰囲気をつかみ取ったのか、王泥喜は何も発言していないのにハミガキが口を挿んできた。
「え。本当ですか!」
「この部屋の、その本棚。上から3段目の……黒と茶色の間の白い背表紙の本を見てもらえますか」
「『或真敷天斎、その終章』……著・葉見垣正太郎。……自分の本の宣伝ですか!」
「本を見て森を見ず……ってゆう。本当に見るべきは、隣の茶色のファイルの方です。ザック氏が自分でまとめたあの事件の全て……。もちろん、裁判についても書いてありますよ」
それはいい。早速見させてもらおう。
「ワタシも見せてもらったことがあるのですが……。これだけのスクープのフルコースを目の前にして記事が書けないという地獄の苦しみを味わわせるために見せたんじゃないかと思うほどの……。……ザック氏亡き今。もしかして……書き放題!?」
「だめですよー。みぬきが暴露本を出す時の資料になるんですからね」
「共著という手もあったり、無かったり」
外野は放っておいてとにかくこの記録を紐解こう。
つづく

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