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第3話 あるまじき逆転(311)
・偽装工作
バランに、偽装工作について聞いてみる。
「ザックさんに濡れ衣を着せた偽装工作ですけど。随分と手が込んでいるというか……とっさに思いついて実行したって言う感じじゃありませんよね」
バランは帽子を目深に被り直した。
「とっさにあのくらいが思いつけずに魔術師が務まると?」
とっさに思いついたと言うことにしたいようだが。
「薬液は事前に調べてありましたよね」
「あれはですな。以前見舞いに行ったときに師匠に言われて知っていたのですよ。お前の喜びそうな薬だと」
「色を知っているだけじゃなくて、現物も用意してありましたよね」
そうでなければ点滴液を増やすことはできない。
「何せ、ラッキーカラーですからな。師匠の回復も祈りつつ、お守り代わりに持ち歩いていたのです」
残念ながら、これで筋は通ってしまいそうだ。
「……嘘くさいなぁ。本当ですか」
「私が嘘や隠し事をするようなあるまじくせせこましい人間に見えるのですか」
「……あるまじく、見えます」
「人を見る目のない御仁だ。あるまじき、あるまじき……」
人を見る目、殊に嘘や隠し事についてのそれには自信がある。今もまさに、バランを取り巻く心の鎖、心の鍵が見えているのだから……。
・サイコロック・偽装工作
「本当のことを話してもらいますよ」
「これ以上の真実がどこにあるのでしょう」
その時、無言でザックが立ち上がり一睨みすると、またしてもサイコロックはあっさり砕け散った。
(いいなぁ、その目)
「私の前では話しにくいこともあるだろう。バランよ、今から目を瞑って三つ数えろ。その間に私は消えていなくなる事にするよ」
バランが三つ数える間にザックはしゃがんで仕切の陰に隠れた。バランは目を開き、ザックが見えないことを確認すると声高らかに宣言した。
「ではあるまじくありのままを話しましょうぞ!」
(これでいいのか……?)
本人がいいと思っているのだ。ここはつっこまずに黙って話を聞こう。
「あの呼び出しの手紙……。ザックの所にも届いていたことは知っておりました。他でもないザックから聞かされましたからな。時間差で、先にザックを呼ぶ手紙……。師匠が何を目的にあんな手紙を出したのか、考えてみたのですよ。最初は師匠を撃ち殺したザックを警察に突き出す役目を託されたのだと思いました。……しかし。私だって薄々感付いてはいたのですよ、師匠が私よりザックのほうを目にかけていることにはね。そして、恐ろしい可能性に気付いてしまった。私はザックが師匠を撃ったあとに現れ……全ての罪を着せられるために呼ばれたのではないか。だからこそ!真犯人を告発するための準備をして病院に向かったのです」
「……それにしては結構回りくどい告発方法ですよね」
バランが行った時点で何かバランに罪が被されるような罠がなければ、単純に第一発見者になったはずだ。それに、さり気なく誰かに道案内を頼むなどして同行させれば、自分が犯人ではないことを証明してくれる。何も、こんな手の込んだことをしなくてもいいはずだ。
バランはまだ、本音を隠している……?
つづく

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