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第3話 あるまじき逆転(317)
聞き込み中
・バランの証言
「どうです、バランさんのさっきの話……。おかしな所とか気になる点とか、ありませんでしたか」
ひとまず聞いてはみたが、何もないに越したことはないだろう。
「……そうだな。いろいろとおかしな所があったと思う」
そうは問屋が卸さないようだが。
「う。どこらへんが変でした?」
ならば、腹を据えて情報を集めよう。そう割り切る成歩堂だが、まず返ってきた答えは意表を突くものだった。
「一番変だと思うのは……あれだけいろいろとおかしな事を言っていたのに嘘をついているようなそぶりがまるでないことだな。」
「え」
「少なくとも、バランは自分の記憶の事実を包み隠さず話しているのだろう。それで話が合わないのなら、そこに何かがあるという事さ」
「……そうですね。それで、どこが気になったんですか?」
「そうだな……まず気になったのは火薬の臭いだ」
「銃声を聞いて病室に戻ったとき漂っていたという火薬の臭いですよね。何がおかしいんです?」
銃を撃ったばかりの室内で火薬のニオイがするのは至極当然のことだ。
「おかしいのは、嗅いだ匂いじゃない。人一倍銃に怯えて敏感なバランが、最初に部屋に入った時の私の撃った銃の火薬の臭いに一言も触れないことだ。奴が師匠の病室に入ったとき、部屋は火薬の臭いで満たされていたはずだよ」
そう言えば。バランが病室を訪れる前にはザックが部屋を訪れ、ピエロの人形に向けて銃を撃ったはずだ。
成歩堂は考えを述べる。
「もしかして、その臭いも気絶した原因だったんじゃないですかね。バランさんは銃を手に取ったときに気絶したと思っているようですけど、本当は部屋に入ると同時に気絶していた……とか」
「……それもあり得ないない話ではないな。次に気になったのは看護婦の話だ」
確か、バランを病室まで案内する際、強面の群れを気にせずずんずん進み、バランはそのパンパンの足をひたすら追い続けていたとか。
「何が気になりました?」
「いやね。……私の時はナースの案内なんかつかなかったなぁ、ってね」
「……はあ。レンコンみたいな足のナースだったらしいですけど……案内して欲しかったですか」
「私が見かけたナースはなかなかに美人ぞろいだったぞ」
「それはよかったですね」
案内して欲しかったならば声を掛ければいいじゃないか、と思う成歩堂だが、そう言うわけにはいかなかったようだ。
「そもそも、私はこっそりと病室に来いと言われていたぞ。案内など当然つかなかった」
「ええと。こっそりと病室に向かったんですか。……その恰好で」
「その通りだ」
ピンクのド派手なステージ衣装で、こっそりと病室に向かったらしい。
(こっそりの意味がない気がする……)
しかし、これは確かに気になる。呼び出しの手紙の文面は、時間が違うくらいでほぼ同じだった。だが、方やこっそりと、方や案内つきで病室に向かっている。この違い……何かあるのだろうか。
つづく

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