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第3話 あるまじき逆転(341)
同日某時刻 52号病室
果たして、生きてこの病室から帰ってくることができるのだろうか。もし、万が一のことがあってもここは病院、すぐに入院出来る。だが、入院することになったらそれはそれで気が休まらない。とにかく、無事に帰りたい。それだけを祈りつつ、成歩堂は扉を開けた。事件現場となった病室の隣、あの顔も発言も恐ろしい入院患者の病室の扉を。
部屋の中を見渡し、茜が言う。
「……誰もいませんね」
ちょっとだけ、ほっとした。
「まだ油断はできないよ。さっきは突然布団の中から出てきたからね。本当にいないか確認してみようか」
「……なんであたしに言うんですか。成歩堂さんが行ってくださいよ。あたしは椅子の下に隠れていますから」
眼鏡で顔までガードし、茜の守りは盤石だ。こうなると成歩堂には手出しできそうにない。
「ううう……。……どうやら、ベッドの中にはいないみたいだ。……他に隠れられそうな場所もない。これはもう、ほぼいないと考えていいかな」
先ほどのトラウマのせいで、完全にいないと断定する気にはなれなかった。
「とにかく、今がチャンスだ。こっそりブツを置いて痕跡も残さず立ち去ろう」
「そうですね!……ああっ!だ、ダメです成歩堂さん……!あたし、とんでもないことを!」
「な、なに……?」
「今、この椅子の脚を!脚を掴んじゃいました!指紋が残っちゃいました!」
半泣きになる茜だが。
「……相手は警察じゃないし、指紋は調べないと思うけど。……心配なら拭いといたら?濡らしておいてあげるからさ」
成歩堂は渡されていたルミノールを取りだして吹き付けた。
「ちょ。ちょっと成歩堂さん、それ、決して安いものじゃないんですから、気軽にお掃除に使わないでくださいよ!……って……きゃあ!」
いきなり飛び上がる茜。
「ど、どうしたの?」
「け……血痕です!今のルミノールが反応してます!」
「ええっ!」
茜から借りたメガネを通してみると、椅子にかけた時に床に散ったルミノールが所々で光を放っている。かなりの範囲に渡っていそうだ。
成歩堂は更にルミノールを吹き付けた。血痕の全容が浮かび上がる。
「かなり大きな血痕だぞ……!」
「これは……血痕を何かで拭き取った痕跡です!それも、最近の血痕ですよ!」
これは一体どういう事か。考えようとした矢先。
「おいコラアアアアアア!俺の病室で……何をしてやがる!」
あの、傷だらけの男が扉を開けて立っていた。
(しまった……!帰って来ちまった!)
男は二人を睨み付ける。
「ふざけたことをしてくれるじゃねえか……!なんでよりにもよって俺の部屋で……プロポーズなんぞ!見せつける気か?オラアアアアアア!」
固まる二人。
「はい?」
「ぷ……プロポーズ?」
「ごまかしてもしっかり聞こえとるわ!二人で結婚結婚言ってただろうが!」
「……」
……ありがちすぎる勘違いである。一応、誤解は解いておいた方がいいのだろう……か?
「……か?じゃないです!さっさと誤解を解いてください!」
茜に怒られたのでとっとと誤解を解こう。
聞き込み項目
・さっきのこと
・血痕のこと
つづく