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第3話 あるまじき逆転(337)
「ああ、それかい。ぼくも報告は受けているよ。彼の古傷らしいね」
牙琉検事は既にその弾痕について知っていた。
「なぜ古傷だと言えるんです」
「撃った本人が言っていたから間違いないよ。その時の犯人もまた或真敷ザック。随分と前に新しい手品の演目を考えているときに試し撃ちの的にされたらしい。二度も同じ人間に同じ銃で撃たれるなんてよほどの因縁だね」
どうやら、この弾痕は事件とは関係なさそうだ。念のため、詳しく見ておくことにする。
(ふむ……。この弾丸も貫通はしていないのか。この人形は、石頭のみならず腹筋も相当鍛えてるな)
愛くるしい見た目によらないタフガイだ。貫通こそしていないが、弾丸の姿はない。
「ここの弾も警察が取りだして調べたんですか?」
茜の質問に糸鋸刑事はかぶりを振る。
「いいや。弾は最初から入ってなかったッス。その弾痕、よく調べるとほじくり出した痕跡もあるッス。事件より前に取り出されたものと思われるッス」
「事件前?それは間違いないんですか」
「事件後に取り出すのはまず無理ッすな。頭に突き刺さってた弾を警察が引っこ抜くのも苦労したッス。事件後じゃ、誰にもそんなことをする暇はないッス」
そこに牙琉検事も口を挿む。
「それに、事件の当夜に撃たれたというなら服に穴が開いてるはずだろ」
確かに、服に穴を開けずに銃弾は突き刺さらない。
(銃弾が穴をあけたから新しい服に着せ替えた……。あるいは、撃たれた時は裸だった。そんな可能性だってある。この服が事件の時に着せ替えられたという証拠でも見つければとりあえずひっくり返せるかな)
服をまじまじと見つめる成歩堂。牙琉検事もその動きに気付いたようだ。
「この服が事件の時に着せ替えられたという証拠は出てこないだろうね。……そんなことを考えていたんだろ?」
「ぐぅっ……。な、何でそんなことが言えるんですか!」
「だってほら。警察だって服の下から弾痕が出たんだから、そのくらいの可能性は考えるさ。色々調べてみたけど、不審な痕跡は無しとしか言えない、だって」
「それって、不審じゃない痕跡はあったんですか?」
牙琉検事の微妙なニュアンスに茜が反応する。それに対する牙琉検事の反応も早かった。
「もちろんさ。長年に渡っていじり回されてるからね。そんな中から不審だと思えるほど痕跡はよっぽどのものさ」
嬉々として喋る牙琉検事の言葉に、ガッカリするしかない成歩堂。
「……ありがとうございます、牙琉検事。証明できる可能性の薄い進路を一つ、すっぱり捨て去ることが出来そうです。……トホホ」
とにかく、人形についての情報はまとめておこう。
人形のデータを法廷記録にファイルした。
つづく

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