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第3話 あるまじき逆転(350)
・病院のこと
改めてこの病院のことをカツラゲに聞いてみることにした。
「カツラゲさんとこの病院の仲って……どう言うことですか?」
「あんたら、ここの他の患者には会ったかい」
「いいえ。見かけてませんね」
バランが事件当夜に何人かの患者と思しき人物に遭遇しているが、強面揃いだったはずだ。と言うことは。
「ここに入院しているのはみんなキタキツネ組の組員サァ。もちろん、俺もナァ」
案の定だった。しかも、キタキツネ組と言えば成歩堂の事務所からとても近所である。
「ひゃあ。カツラゲさんって……ヤクザだったんですか」
今までの話を聞いてもそれに気付いていなかったというのか。俄かには信じられない。
「それは一目で気付こうよ。この顔に、入れ墨だよ?」
「病院でこの顔は、ただの怪我人だと思いますよ。それに……アメリカじゃタトゥーなんてみんな入れてますし。ファッションで!」
「日本でこれだけの入れ墨を入れるのはファッションじゃちょっと無理だよ」
アメリカ基準で話をされても困る。
「俺たちは何かと大怪我するからナァ。病院にとっても上客って事よ。俺たちとしてもここなら事情も聞かずに治療してくれるし、他の患者に気を使うこともねえ」
(周りに気を使うならヤクザになんかならなきゃいいのに)
しかし、こんな顔の人間が普通の企業に勤めていてもお互いに気を使うことだろう。ヤクザには落ち着くべくして落ち着いたといったところだった。
それより。バランは事件の夜、この病院のあちこちで強面に囲まれたと言っていた。あの話は本当だったようだ。
「それに、他の患者がいないから病院側も俺たちのわがままを聞いて普通じゃやらないようなサービスをしてくれるのさ」
カツラゲは成歩堂に顔を近付けて小声で言った。
「まさか……抗争でかつぎ込まれた他の組の人を……生きたまま解剖!?」
茜の発言にカツラゲの顔が引き攣った……ような、もともとこんな感じのような。
「そんな恐ろしいことするか!……この嬢ちゃんの発想、ヤクザより怖くないか」
「そんなこと言われても」
少なくとも、成歩堂にとってはヤクザのほうが怖い。
「それじゃ一体、どんなサービスを……?」
「お嬢ちゃんにはちょっと言えねえナァ。弁護士先生ヨォ、あんたになら教えてやってもいいぜ」
「はぁ」
成歩堂は部屋の隅に連れて行かれ、一枚の名刺を手渡された。『おにゃんこナース あけみ』と書かれている。
「……もしかして。サービスっていかがわしいサービスですか」
「そういう事よ」
そういえば。ザックは事件の夜、カグラちゃん以外のきれいなナースを複数目撃していた。それはつまり、こう言うことだったのか。
あやしいナースの名刺を証拠品ファイルに隠した。
「なるほどさん。何だったんです?」
「あまりにも恐ろしすぎてちょっと言えないかな」
今自分を見たら、きっとサイコロックが出ていることだろう。
「ううう。やっぱり聞かない方が良さそうですね」
「それで。病院とはなあなあだから病院が隠したがっていそうなことは隠しておこうと思った……そういうことですか」
「まあな。話を聞きたかったら他の組員にでも聞くこった」
(それはイヤだ……。何も怖いヤクザに聞かなくても、病院の関係者に話を聞けばいいさ)
つづく

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