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第3話 あるまじき逆転(421)
「……ええと。なぜ、そうなるんですか」
成歩堂が必死に考えた結果、糸鋸刑事が間違いないと言い切った事実が間違いだらけであることに思い至ったのであった。
「なぜ、そうならないと言えるッスか!」
「ザック氏が撃った弾は人形に突き刺さった。それは今の話から間違いないですよね。しかし……その凶器の銃を被告人が撃ったという確証はあるんですか」
「被告人以外に誰がいるっていうッスか」
糸鋸刑事は根本的に、この二人以外に銃は撃てないという前提の元で話をしている。
「ですから、誰かいたらどうするんです。誰が撃ったのかを示す痕跡はないんですよね?」
「……ちょっと待つッス。今……考えるッス」
第三者の介入を、案の定全く考えていなかったようである。
「被告人が撃ったという確証はないようですな」
裁判長がこの判断を下すのは当然であった。牙琉検事も溜息しか出ない。
「やれやれ。チャンスをあげたのは失敗だったかな。少し困ったことになっちゃったし」
愚痴も出た。ついでに、何か気になる発言もあった。
「困ったこと……?」
「ああ、いや。困った刑事君だと思ってさ」
「うう。よく言われるッス……」
確かに、そう言いたいだろう。この刑事を良く連れ回している検事の、日々深くなっていく眉間のヒビを見れば実に納得だ。しかし。
(違う……困ったことになっているのはこの刑事じゃない……いや、この刑事だけじゃ無い!今の資料には何か困ったことがあるんだ!……どこが困るのかはさっぱりだけど!)
成歩堂の頭は高速で回転し、やがて空回りに移行した。
「さあ、困った刑事クンにはそろそろ退場して頂いて、何もなかったように次の証人を呼ばせてもらうよ。……狡猾な被告人に嵌められ、無実の罪を着せられた可哀想な相棒さ」
成歩堂の頭が空回っている間に糸鋸刑事は追い払われた。そして次の証人はザックらしい。
(あの顔見てそれを言うか)
さくっと頭を切り換え、通常のツッコミモードに移行する成歩堂。
「やだなぁ、弁護士さん。ボクは男にそんな気を遣ったりはしないよ。でもね、気を遣いたくなるような子が身内にいれば話は別さ」
すると早速心を読まれた。しかし割といつものなのでそこにはツッコまず別なところにツッコむ。
「……もしかして、狙ってるんですか。あんな小さな女の子を」
「今はまだ小さな女の子かも知れない。でもいつか大きく育っていくのさ」
決まった、とでも言いたげな顔で言う牙琉検事。全然決まってないと思う。
「……これが女の子じゃなくて光とか希望とかだったらカッコいい科白なんですけどね」
茜もドン引きであった。
「女の子が育っている間に自分は老けていくことに気付いていないのかも知れないね」
気付いていないのは成歩堂の方である。牙琉検事くらいになれば、中年になっても素敵なナイスミドルであることに……。さておき。
「小さな希望の光を育てている証人を入廷させる前に、10分間の休憩とします!」
頭に大いなる光を宿し、裁判長が木槌を振り下ろした……。
つづく
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