久遠の青春 スピンオフ 路傍の雛罌粟のように
05.永遠の0(ラブ)(1)
「そういえばさ。俺は美香にテニスを教えてもらえるけど、そのお返しに何かしてやれる事ってあるのかなぁ。できれば何か教えてあげられるようなことがあるといいんだけど」
何気なく話題を変えてリラックスしてもらう。パソコン関係とかなら教えてあげられないこともないけど、より気軽に話せるだろう情報科の竹川さんには負けそうだし、それ以外の工業科の知識なんて女の子に無縁のことの方が多そうだし、連城みたいに女性向けの技術スキルも持ってないし。
学校の勉強以外でやれることなんて、遊び方面くらいだぞ。最悪、返せる物は俺の乏しいお小遣いから何かおごるくらいになっちゃうんだが。あるいは、カラダで。もちろん、体力を生かした肉体労働的なそっちだ。変な意味じゃなく。
「教えて欲しいこと、か……」
長沢さんは少し考えて、やにわに真っ赤になったので。
「変な意味じゃなく」
慌てて言い添える。恐ろしいことに、教えて欲しいことの筆頭が赤面するようなことだったようである。いくら相手が化粧バッチリで大人びた雰囲気でも、そこまで要求するほどこちらは大人ではない。いや、いきなりそういう要求をしないくらいには大人なのだ。そう、子供じゃないけど大人になんかなりたくない、そんなお年頃なのである。
「う。わ、わかってるけど。……教えて貰いたいこと、あるかも。でも、ちょっと恥ずかしい……」
長沢さんはそこで一度俯きながらの言葉を切り、顔を上げ。
「変な意味じゃなく!」
慌てて言い添える。しかし、それってなんなんだろう。言うのがちょっと恥ずかしい、だけど変な意味じゃない、教えて欲しいこと……。
まあ、これも無理に話してもらわなくてもいい。気にはなるけど、まだ知らない方がいいことのような気がするし。リラックスしてもらおうと話題を変えたのに、また微妙な雰囲気になっているし。
「あっ、そっか」
何かに気付いた様子の長沢さん。
「ん?何かあった?」
「いつもと違ってやりにくいの、なんでか分かった」
「んー。なんで?」
「いつも誰かに教える時はさ、こうなのよ」
俺の後ろに回る長沢さん。
「そっか、向かい合ってるからやりづらいのか」
「うん。特に相手が男の子の場合って、向かい合うと教わってる方がやりにくそうだし」
うん、すっごい分かる。俺はここしばらくカレシをやってるおかげで結構耐性がついてきているけど、真正面の至近距離での長沢さんは抵抗力がないと耐えられない。特に俺達みたいな普通以下の男には。
しかし今回はお触りなしの口頭での指示中心という前提だったし、そこに手を広げたら船が沈む映画のワンシーンみたいになりそうな吉田のコーチを事前に目にした影響もあり、長沢さんは俺の前に居る。
「それならフォームを直す時くらいはいつも通り後ろに立てばいいよ」
俺は抵抗力がついてきたので耐えられるが、耐えなきゃいけない時点で楽じゃないのは解ってもらえると思う。まして今日は化粧でいくらかパワーアップしているのだ。冬の太陽が夏の太陽くらいには。どちらにせよ直視なんか出来ないが、今日はより一段と強烈である。しかし元がすごすぎるので化粧による伸び率がそれほどでもないのが幸いだろう。割合が大したことないだけで、伸びた分だけでも十分に一撃必殺なんだけどね。

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