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第3話 あるまじき逆転(457)
気になることがあるならゆさぶってみるべきだ。
「証人。あなたは被告人が事件の直前に会場に出入りしたという話を今までしてこなかった。その話をもっと早くしていれば、みぬきさんの疑いは裁判前に晴れていたかもしれませんよ」
それなのに、なぜ今まで黙っていたのか。それが気になったのである。
「そうね。でも、今まで忘れていたのも仕方ないわ。だって、いつものことだったし」
いつものことだったから対して気にもせず、最近まで忘れていたと言うことだ。
「いつものこと……ですか?しかし、いつも何をしていたんでしょう」
「それは分からないけど、副座長はここ最近夜な夜なホールに出入りしていたわ。何をしているのか気になって……いえ、気にしたことなんかなかったけど、とにかく全て座長殺害のための下準備だったのね」
「いや、決めつけないでください。むしろ、頻繁に夜のホールに入っていたなら、何か目的があったのかも知れません。たとえば……誰かとの秘められた逢い引きとか!」
勝手に決めつけるのは王泥喜もであった。
「!!あり得ない話じゃないわ!」
そして、乗るポラン。これはもはや二人の良識人に止めてもらうしかない。早速牙琉検事が異議を差し挟む。
「異議あり!……その夜、ホールでは被害者とみぬきちゃんが翌日の準備をしていたんだよ。そんな時に逢い引きなんて、バレちゃうよ」
牙琉検事も逢い引きに反応して話題に乗ってきただけであった。ここまで来ればもはやこれは議論である。そして、裁判長の意見。
「なるほど……逢い引きになれてそうな人はさすがに着眼点が違いますね」
牙琉は後ろの壁をドンと叩いた。
「慣れてないよ!そんなことよりさ。そんな色っぽい展開があった可能性は低いと思うね」
(とにかく……バランさんは夜な夜なホールに出入りすることがよくあったようだ。その辺りから、ホールにいた理由も分かるかも知れない……。状況は変わったみたいだ!)
そして牙琉検事に変な火の粉が掛かったことで、この無意味な論争も幕切れとなったようで何よりである。
「
開け放たれた宿舎の玄関からね」
「待った!それは、鍵が掛かっていないという意味ではなく、扉そのものが開いていたって事ですよね」
「そうよ」
「なぜ開け放たれていたんですか!」
「暑いからよ」
「はあ」
問い詰めてみたが、この季節には普通の理由だった。
「宿舎は昼間は閉め切ってて夏の暑さをこってりとため込んでいるわ。そして、廊下にはクーラーがない!だから風を入れるために玄関を開けておくの」
「少し、不用心だと思いますぞ」
裁判長の言うことももっともではある。
「牙琉検事みたいな人が入り込んできたら危ないですよね」
「ぼくを変質者の例として使わないで貰えるかな」
「大丈夫よ。そもそも一番危なそうな人は玄関から堂々と出入りしてるもの」
「被告人とチャランさんですか」
誰と言われなくても分かってしまう王泥喜。
「その二人から見ればあたしとみぬちゃんも危険かもね」
悪魔のような笑みを浮かべるポラン。王泥喜は納得する。
(ああ、何かいたずらを仕掛けるんだろうなぁ)
「この一座の張りつめた人間関係が見えるようだね」
「平和で和やかな日々しか見えませんケド」
ここの女性陣とあまり親しくして貰えていない牙琉検事には真実は見えていないようだ。
つづく

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