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第3話 あるまじき逆転(462)
尋問中
「
外で見た副座長はステージ衣装で……」
「待った!ジャージだった被告人が再びステージ衣装に戻っていたわけですね?」
そこがこの証言の肝である。
「そうね。わざわざ動きにくい服に着替えたのにはそれなりの理由がある訳よ」
そしてその理由がこの証言の焦点である。裁判長は証言の先を促す。
「それが返り血ということですね。では証言を続けてください」
「
長い髪を風に靡かせていたわ」
「待った!……風、ですか」
心の中で、風を思い浮かべながら王泥喜は問う。気持ち、前髪が揺れている気がした。
「風、……よ。あの夜は降り注ぐ微かな星明かりとそよぐ風が空の下の全てを包んでいた。それは罪と血にまみれた副座長にも平等に……ね」
「ポエミィだね」
「いや、むしろ詩的ですな」
(同じ意味だな)
とにかく、罪と血にまみれたと言うところを認める気はない。
「ほかに包んでくれる相手のいない証人もまた同じ風と光は包んでいてくれた、と」
さらっとひどいことを言う牙琉検事だった。
「そうね。涼しい風とさめざめとした光……それでも心地よかったのは今のあたしにはお似合いだからなのね」
さらっとそれを認めるポランだった。
(純粋に、暑いからだと思うケド)
そして多分、牙琉検事はポランとバランの距離が近かったことを確認したくて言ったのだろうとは思うが。
「何なら、ぼくが包んであげてもいいんだけど」
いや、むしろここに繋げたいがゆえの先程の発言だったようだ。
「女の子の話は聞くものよ、坊や。今のあたしには孤独がお似合いだって言ったわ」
言い放つポランだが、大人を坊や呼ばわりする女の子とはいかがなものか。
「とにかく。風が吹こうが隕石が降ろうが、あの時見たのは副座長よ。それは揺るがないわ」
「あの夜って隕石が降り注いでたんですか?みぬき、テレビを見てたから知りませんでした」
そういうみぬきの顔が普通に真顔なので王泥喜は一言言っておく。
「隕石が降り注いでいたらテレビどころじゃなかったと思いますよ……。うるさいでしょうし」
隕石が降り注いでいたらうるさいどころじゃなかったと思われるが、誰もその点については触れることはなかった。
つづく

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