ホルンという楽器を始めて幾年、私に西洋音楽の扉を開かせたそれは未だに興味を尽きさせず、またその対象は私に限らず、未だに多くの音楽家の寵愛をくねくね曲がった管と大きなベルその一身に受け止めている。
今日はあるオーケストラの演奏会、その打ち上げに参加し、非常に楽しい時間を過ごした。
※余談ではあるが、急遽頂いたこの仕事予定は私の空いたスケジュールに非常に丁度よくはまり、ありがたい限りだった。
周りの奏者は私に対して少し堅いと思える程の謙虚な姿勢を示していただき、恥ずかしくも嬉しい限り。今後ともお世話になりたい団体の一つである。
その打ち上げにて、年上同年年下の奏者方と楽しく話をするうちに、やはり誰もが冒頭の思いをホルンという楽器に抱いている。
その最大の魅力は和音であり、音色のメリハリの間隔の広さである。
チャイコフスキーの五番交響曲の甘い旋律と四番交響曲の衝撃的なファンファーレ。
ベートーベンの八番交響曲の優美な二本のホルンとクラリネットの掛合いと七番交響曲の勇壮な主題。
ブラームスの一番交響曲の雄大なアルプホルンの響きと四番交響曲の迫り来る葛藤の警笛。
それらに人は感動をする。同じ楽器とは思えぬ表現のメリハリの広さと深さに心奪われるのである。
和音の変化については以前述べたので、今回はそのキャラクターの変化のさせかたのコツを述べる。
ホルンに限らず種々の楽器は振動体により、また、振動を生み出す要因の振動体へのアクションのさせかたにより音色がある程度決まり、変化し得る。ヴァイオリンの弦の材質がスチールであるかガットであるか、ティンパニの皮が動物皮であるか特殊プラスチックであるかで変わるであろうし、触れる弓の毛の質とその当て方弓力、マレットの材質叩く場所で、その元々ある音色を操作できる。
管楽器で言うならば楽器の材質と呼気の調子、文字通りメリハリ(語源は尺八の息の入れ方…アバウトに言うならば弱くはメリ、強くはハリ、による)を利かせることによる。
更に金管楽器の場合で言うなら、楽器の材質に加え管の巻き方、そして振動体である唇の日々のトレーニングによる柔軟性が大きく関与してくる。
最後にホルンならではの事柄を挙げると、右手の具合と楽器の管長の変化(所謂変え指)が独特かつ他のどの楽器よりもその変化が大きい。
大雑把に言えば以上である。テーマである『ホルンのキャラクターの変化のさせかたのコツ』をまとめると
・楽器の選別
・アパチュア
・アンプシュア
・唇のフレキシビル
・呼気のメリハリ
・右手の調節
・変え指
となる。
以下に詳細を述べる
・楽器の選別
音色に限って選別することではないが、楽器の違いは音色の違いをそのまま非常に体現する。楽曲により楽器を選択する奏者の存在を無視してはならないだろう。
楽器ごとの音色は人によって印象が変わるだろう。通説はあるが、明るい暗い(快活重厚)、という基準で私個人の考えを述べるならば
明
アレキサンダー
ハンスホイヤー
ヤマハ
ヴェンツェル・マインツ
コーン
ホルトン
暗
となる。あくまで私見である。
また、ラッカーの有り無しできらびやかであるか素朴であるかが変化し、ラッカーの種類はそのメーカーのその楽器の持つ音色の明暗に影響を与える。
金(イエロー)が明るく銀(シルバー)が暗く、赤(ローズ・ゴールド)はその中間、という印象が出回っているが、私は赤ラッカーは金と銀の特長を取り入れた第三の音色であり、二つの色の中間に位置することはないと考える。
・アンプシュア
・アパチュア
・唇のフレキシビル
・呼気のメリハリ
全て顔面の事柄であるので一同に解説する。
誤解を持つ奏者の為に注釈をつけるが、アンプシュアとは首から上の筋肉の作用、アパチュアとはその中でも唇の呼気の通り道を差す。
恩師であるフィリップ・ファーカス博士の名著『フレンチホルン演奏技法』の一節を拝借し、両頬を上昇させ口唇端を左右に、そしてやや上部に引くアンプシュアを『微笑みのアンプシュア』、口唇端をややすぼめた『口笛のアンプシュア』という二つの言葉を使用する。
微笑みのアンプシュアは明るくブラッシーな音色、口笛のアンプシュアは暗くダークな音色になると概説出来る。
この事柄については博士の名著を参照されたい。
経験上、ハイノートには微笑みのアンプシュアの特長、ローノートには口笛のアンプシュアの特長が現れやすい。
また、トロンボーンやテューバなどの大きなマウスピースによる楽器と違い、小さなマウスピースを使用するホルンの場合、このアンプシュア、並びにアパチュアの操作は微小なもので大きな変化をもたらすので注意をはらいたい。
呼気のコントロールはアパチュアと関連させることにより音色のキャラクターの幅を広げる。
多くの奏者は呼気を強く、弱く奏することのみにより音色は変化し得ると考えているが、それでは強弱のみにしか対応し得ない。
アパチュアを狭めるか広げるか、という要素を取り入れることにより音色の強弱、そして音量の大小、響きの有り無しを操作し得るのである。
これにより、極小さな音のピアニッシモ、劇的なフォルテッシモ。更には音量の大きなピアノ、音量の小さなフォルテの演奏が可能になる。
※ピアノ≠小さい フォルテ≠大きい であり、ピアノ=ソフト フォルテ=ハードである。これはスタッカート=その音符の半分の長さ、という誤認識に代表される学校音楽教育の弊害の一つであると考える。スタッカートについて疑問があるならば、全音符にスタッカートがついた場合、二分音符で奏するのかどうかを考えてみて頂きたい。
狭めたアパチュアでハイノートを奏し、音を変えずにさらにアパチュアを狭め呼気を増すと、あるいはその逆ではどうなるかを体感して頂きたい。
参考までに、弦楽器奏者が弓を立てて弦に当たる毛を少なくして弓力を強める、あるいはその逆だとどうなるかをイメージすると想像がしやすい。
これらは卓越した唇のフレキシビル(柔軟性)ありきで実践が可能である。
それは日頃のトレーニングによるが、コツとしてはトレーニングに際してフォルテとピアノの幅を広げて、楽譜があるならそのダイナミクスを表す英字を倍にして奏する癖をつけるとよい。また、通常のテンポより遅く、なおかつレガートで演奏することにより効果が上がる。
そのためのお勧めの教則本を挙げると、音階などの基礎的な分野ならコーポラッシュ、マキシムアルフォンス一から三巻、アーバン一巻
リズムと楽譜読解力ならギャレイ、アーバン二巻、マキシムアルフォンス四巻から
純粋にフレキシビリィを鍛えるならアンプシュア・ビルダー、ランゲィ、ファーカス
総合的な練習ならマキシムアルフォンス後半、ギャレイ・12の大幻想曲
が挙げられる
・右手の調節
ホルン奏者なら知って当然の技法であるため割愛。
それよりもベルの位置に付いて述べよう。
ベルが何処を向くかで聞こえ方が全く違うことを理解されたい。
演奏するホール、座る位置により微調節が必要な非常にナーバスになるべき事柄であるが、気にしない奏者が多い。じきに特集とする。
・変え指
ホルンは他のどの楽器とも違い、『種類の違う二種の楽器が完全に独立しながらも機構的に一体化された楽器』である。トロンボーンやテューバ、ユーファニアムのように、主となる管に長さを加えるのではない。独立しているのである。
つまりは一つの曲を演奏しながらも二つの楽器を携えており、尚且つその持替え(管の切替え)が一瞬で済む楽器なのである。
それを利用しない手はないだろう。
F管に呼気を強く吹き込み、高次倍音(私見では第八倍音以上)を奏すると非常にブラッシーな音色が得られる。
また、F管で三倍音以下の音を奏すると温もりのある豊かな音となる。
これは管長の違いによる。高次倍音の場合、B♭管とは違う、3メートル70センチもの長さの管に息を吹き込むと、管の細さによる、管の上下の呼気の激しいぶつかりがB♭管よりも約一メートル分多く生じるため、ぶつかりの音がハッキリとあらわれ、ブラッシーな音となる。
低次倍音ではぶつかりが無いという点により同様である。初級の物理学よりも簡単な原理だ。
さて、以上、様々な点からホルンの音色のキャラクターの変化のさせかたのコツを述べた。
だがいくらコントロールが上手くとも、どの音色をどこで使うがいいか適宜判断する音楽性が無ければ意味がない、と述べておく。
今日の打ち上げの様子。
バーと二次会のカラオケでパチパチ写真をとってもらったが…よく考えたら撮られたばかりで自分で写真を持っていない!
しくじった…
一件目の店ではバーテンダーがカクテルを作ってくれており、喜び勇んで頼んだら…混ぜるのは機械の役目、バーテンダーは決められた分量を注ぐだけ、と残念な思い…
不味いし…
やっぱり酒は信用出来る人間じゃないと頼めん。
でもビールは自分で注いで美味しかったし、何よりビュッフェが堪らない!良い思いをさせてもらいましたです
カラオケでは兄弟船と島唄続けて二曲で先陣を切り、関白宣言、エブリシングと熱唱。楽しかった。
…打ち上げの様子をレビューするって珍しいな(笑)
写真は数少ない自分が持っているその様子
写真を撮られると高確率で変な顔をする私の真面目な顔を撮ったことのある人はきっと幸運


0