『吹奏楽』というものは既に一つのジャンルとして確立しているものである。それは軍楽隊の歴史に方を並べ、ベートーベンの時代には音楽のジャンルとしてまで登り詰めた。
根本を言えば、吹奏楽とは吹き奏でる事であるが、その形態に打楽器とコントラバスが含まれる。その存在に注目したい。
打楽器は軍楽隊の必須曲、マーチに欠かせないものである。行進する楽隊ではリズムとテンポの固定、それを司る打楽器はあってしかりべきである。
ではコントラバスの存在理由は何か。
答えは軍楽隊から平民楽隊への移行段階にある。
軍楽隊は確かに管楽器と打楽器だけであった(ベートーベン作曲『軍楽隊のための小作品』により明らかになる)。しかし、平民楽隊、即ち当時の農楽隊の演奏し得る楽器は管打楽器に止まることはなかった。今日のヨーロッパ圏の大道芸人を見れば分かることだが、ヨーロッパでは管楽器よりも弦楽器のそれが広い。日本人には考え辛いが、管楽器奏者<弦楽器奏者だったのである。これにはトロンボーンなどは聖職者のみに奏者が限定されるなどの理由も関与し得る。
平民楽隊に新しく取り入れられた軍楽隊音楽というジャンル、それは管弦打楽器混合楽隊、という形式を長らくとり、親しまれて来た。
しかし、管楽器のみによる演奏による利点を見出した先人たちは平民楽隊音楽と化した形式に目を向けることとなる。管楽器のみによる和音の要素に新しい価値を見出だしたのだ。
その発展途上に於いてサクソフォンという木管楽器、アルト、バリトンという金管楽器、総称してホルンを簡易化したサクソルン族と呼ばれる楽器の開発により、ヴァイオリン、ヴィオラはその席を必要とされなくなったのである(今日でもヨーロッパの農村ではチェロを添える楽隊が存在する)。結果、常任とされるのはテューバに音色、奏法その他で勝る部分のあるコントラバスのみとなったのである。これを『サクソルンの台頭』として音楽史の大きな改変とみる音楽学者は少なくない。
さて、その吹奏楽という形式を得た楽団は日本で類を見ない浸透具合を見せる。次回はそこから話を進めよう。

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