「音楽話…日本のコンテストマーチングを考える第二回」
音楽全般
(続き)
まず、基本スタイルである。
オフィシャルな立場である軍楽隊は時には象徴ともなり、その姿は整然とした秩序で保たれていなければならない。
マーチングが発展したのはイギリスとアメリカの二国によるものであり、それぞれに独特のテクニックがある。だがどちらも王室軍隊の流れを汲み、気品に富んだ共通したスタイルを持つ。
足は踵と爪先を揃え(開くのは行進に不向きなドラムコースタイルである)、親指の付け根に体重を乗せる。そして踝、内膝、内股の三点接着(一般の気をつけ、の状態常より、足が体の中心に寄せられた状態)の体制をとることにより、ただの起立にはない、足の動作開始への機敏な切り替わりが可能になり、それが整然として、かつ早いほど、気品に満ちたスタイルとなる。
楽器(指揮のためのメジャー≠ステッキ)を持つ上半身は肩を下げ胸を張ることにより颯爽とする。また、臀部を引き締める事で腰が浮き、重心が安定する。
一人先導行進する指揮者の『ready front』の合図と共に進む足並みは寸分の狂いもなく揃っていなければならなく、かつ鋭敏である。単なる
『歩いて演奏する奏者』と
『演奏行軍』
との違いはここにある。
初期日本軍は旧ドイツ軍の流れを微弱に受け、まっすぐ伸ばした足の爪先を天に向けるほど上げる…まではせずとも、膝で足を曲げ、太股を高くあげるスタイルをとっていた。現代運動会の行進である。
競技としてのマーチングの発展が英米であったため、今日ではそのような行進演奏をするだんたいは少なくなっており、なかなかお目にかかれない。
競技としてマーチングをする際…勿論実践的な面でもそうだが…行軍が常に真直ぐ進むだけとは限らない。壁があれば避けるし、道が曲がっていればそれに添って進む。
マーチングの見どころ、見せ所であり、重要な部分の一つである。
ここで二つのスタイルに分かれる。行進するスピードを殺さず滑らかに曲がるブリティッシュタイプか、『set』と言われる動作…曲がる動きの直前に一瞬体を緊張させ、素早く方向転換されるアメリカンタイプである。
どちらも別々の利点があるので優劣は無い。しかしどちらともとれぬ行進をする奏者が少なくないのである。
行進の際には奏者は様々な動作をする。
角を全員が一斉に曲がる
『spin turn』
列ごとに曲がる拍をずらして、曲がる奏者と曲がった奏者が二歩間隔ですれ違う
『cross turn』
内側は小股、外側は大股で、隊列を乱さず方向転換する
『pin heal』
何かの障害があった場合に楽隊を足踏みさせる
『mark at time』
だとか、様々である。
これは通常、コンテと呼ばれるフォーメーションであらかじめ決められており、派手なターンなどになると、狭い間隔で奏者が互いに行き来することもあり、見ている方からしたらぶつかりそうで心配になるが、実はなんの問題もない。
さて、問題は本来その指示を出していたのは誰であるのか、を考えると想像がつく。
それはドラムメジャーと呼ばれる先導指揮者である。
本来は俗称であったその名前の通り(drum=呼び集める,major=陸軍少佐)それは少佐相当将校という位(師団中隊長相当の位、企業で例えるならなら地区総括部長)が担当する栄誉ある役職なのである。
その指示は絶対であり、行軍中は指示があれば雨でも歩き続け、指示が出るまで気をつけ待機である。
今日、メジャー自身のその認識が甘く、実にみっともない行進を見せる団体が少なくない。
気をつけの姿勢から行進に入るまでには、
『演奏開始』
『行進開始』の二つの動作
もしくは
『演奏と同時に行進開始』
の三つの動作が選択肢としてある。もっとも、三つ目は本来やることは少ない。
まずこの三つの別々の動きが理解されていないのである。
一つ目は肩に携えたバトンを一回転させ両手とともに高く揚げ、ホイッスルで拍を明確にするために長く一度と短く一度、一拍空けて短く三度合図(銃剣構え)
二つ目は拍をとりつつバトンを片手で高く上げ上下に動かす、もしくは斜め上に突き刺すように動かしながらホイッスルを短く三度鳴らす(突撃命令)
三つ目は両者を組み合わせるものである。
途中でもしくは、と書いたのはバトンスタイルにも種類が二つあるためである。それはバトンの形状により判断される。
ブリティッシュスタイルはクラウンタイプ、と呼ばれるバトンを使っており、頂点には王冠が冠されている。
アメリカンタイプはバトンタイプと言われ、ステッキ先にゴムの重りが被せられている。
両者のスタイルは明確に分かれており、クラウンタイプは絶対に王冠を下に向けることがなく、指示は高くあげる、横に広げる、という動作で出される。
バトンタイプは競技マーチング確立以後の産物であり、歩きながらのトス、フィニッシュのオーバートスなど、バトンの要素を取り入れエンターテイメント性を高めた。また、競技マーチング独特の動作の指示をするため、多くの指示の構えが存在する。
この両者が混同されがちである。
クラウンタイプは王冠をしたにしないため、バトンを握ったまま、手を胸から斜め下に交互に動かすのであるが、これを王冠を下に向けたり、またバトンタイプでそれを行ったりするケースが多いのである。
また、指示無しでの行進以外の動作、意味不明な構え、バトンをバトントワリングのバトンと勘違いしているかのような過度のパフォーマンス、指示無しで、隊を先導せずフロアの中心に移動するなどのちんぷんかんぷんな事態に陥っている。
基礎知識の確認は必須である…奏者もそれを理解しようとしない世間にも非はある。
型に捕らわれない演奏は自由ではない、無秩序な混沌である。
でなければ型式を作り上げた先人、今まさにその道を歩む音楽家、または志さんとしている学生に対する侮辱ではないか。
次回は総合芸術たるマーチングを音楽の面の観点から考えてみよう

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