「
共謀罪反対 THE INCIDENTS」のほうにも三宅さんたちによる映像取材の記録がさっそくアップされているので、以下と併せて是非御覧ください。
2日(金)の午後は自宅で細々した用を片付けながら「
衆議院TV」の画面を終始チェックしていた。注目の法務委員会中継は予定通り午後1時から始まった――と言えば確かに始まったとも言えたのだが、より正確に言うならば、むしろそれは「始まらない状態がなかなか終わらないまま延々と続く」ともいうべき奇妙な中継番組だった。ようするに、議場からの中継は予定どおり始まったものの、肝心の質疑が待てど暮らせど始まらなかったのだ。
固定されてピクリとも動かないカメラの画面に「法務委員会 午後1時開会」というテロップがずっと浮かんだまま、その向こう側のがらんとした議場では、手持ち無沙汰な数名の議員たちが時折ヒマそうに身体を動かしたり、同僚たちと談笑したり、トイレにでも行ったのか席をしばし離れては数分後に戻ってくるという場面が、まるで監視カメラが捉えた地震発生直前の映像の如く、どこまでもひたすらにだらしなく写し出されていた。
昼過ぎには既に「今日も採決は見送り」という情報がウェブ上でも流れていた。なので「たぶん質疑に入る前の理事会の段階でウダウダやってんだろう」というぐらいの見当はついたが、念のため国会周辺に詰めているはずの清水さんの携帯まで電話。予想通り「理事懇がまだ終わらないみたいなんです」という返事の後で、「石原(伸晃)委員長はもう席についてますか?」と問い返される。中継の画面ではよくわからないが、まだいないようだと答える。
「ウェブでは『今日は見送り』って話が出まくってるけどね」
「わかりませんよ」と清水さんは力なく言った。「本当に、はっきりこうだってわかるまでは何も信じられないですよ、もう……」
5時から衆議院の面会所で報告集会があるというので出向く。地下鉄丸の内線の国会議事堂駅前からの道を歩きながら「最近は週に2〜3回はこの道を歩いてんじゃないかなあ」とぼんやり思う。が、それにしても、この日は周辺一帯に制服警官の姿が異様に多いのに驚く。この共謀罪の問題以前から、例えば国会図書館へ調べものをしに行く際にもこの近辺はよく通りかかっているけど、こんなにウジャウジャといるのを見たのは記憶にないぞ。通常の三倍はいたんじゃないか?
衆議院受付前では西村さんが、自転車を小脇にした数名の人々にビデオカメラでインタビューしていた。自転車による「ピースリレー」というのをやっている人たちで、この日は全国から集めた「イラク戦争反対」とか「自衛隊撤退」とかのメッセージを小泉首相に渡すべく内閣府まで訪ねにやってきたらしいのだが、彼らに対しても制服警官たちが何やかんやと「そこに自転車を駐めるな」とちょっかい出してきたり、勝手に自転車のナンバーをメモに控えたりという具合に、朝から気分のよろしくない小競り合いが双方の間で続いてきたのだという。
(※後日追記:この自転車の人たちについて当初「共謀罪反対のメッセージを持ってやってきた」と書いたが、西村さんによれば「それだとちょっとニュアンスが違う」との指摘を後から受けたので上記のように訂正しました。もちろん彼らも共謀罪には反対してくれているようだが)
これと同じような場面が、先月19日の強行採決見送り直後にもあった。国会周辺では、政府・与党のやり方に異議を唱える様々な個人やグループが以前から日常的にパフォーマンスを行っており、それに警察が逐一いちゃもんをつけるような場所柄でもなかった。それがここ数日は明らかに変わり始めているようだと西村さんは言う。
受付前ロビーでの集会には例によって100人くらい(それも今やお馴染みの顔が大勢)が集まり、忙しい合間を抜けてきたという福島瑞穂や保坂展人などの野党議員からの報告が行われていた。しかし、そうした昨今何度も同じ場所で同時刻に開かれている集会の場にも、制服警官の姿がいつもにも増して目に付いた。外では再び警官と自転車の人々との険悪な押し問答がおっ始まり、無線を聞いて駆けつけた応援(?)の警官たちも加わって一時は緊張した空気に包まれた。「面会所の中の話が気になるのに、これじゃ離れられない」と西村さんが嘆く。
5時半過ぎには面会所での集会が終わり、後には「表現者たちの会」メンバーなど10人程度が残される。今だ動きのない法務委員会中継画面の写されたモニター前のソファーで「これからどうする?」と、気だるい雰囲気での会合が始まる。
と、そんな時、モニター画面の中ではいきなり法務委員会質疑がスタートしたのだ。予定の開始時刻に遅れること4時間45分。
委員長席に座った石原伸晃が一瞬笑い、議場に向かって指を立てる。「さてはここで決める気か!?」と、俄かに緊張感が走った。本当にもう「何があってもおかしくない」かつ「何も信じられない」のが目下の情勢なのだ。がらんとした面会所ロビー前のソファーで、残された十数人がモニターを食い入るように見つめる。三宅さんと清水さんが、ビデオカメラを再び取り出して、最悪の瞬間を取り逃がすまいとモニターに向ける。
が、とりあえずその心配は杞憂に終わった。開会が予定より5時間近くも遅れ、注目していた人々の多くが忘れた頃になってようやく始まったその法務委員会は、結局のところ与党の議員だけが出席し、自民党の早川忠孝氏によるこの間の経過説明と、塩崎外務副大臣による説明(この日朝の麻生大臣発言に野党側から突っ込まれたことに対する釈明)を済ませただけで、開会からわずか30分後の6時15分、呆気なく閉会した。
「本日はこれにて散会いたします」という、石原委員長による前置きなしの一言に、モニター前にいた十数人の間から安心したような、それとも徒労に心底うんざりしたかのような溜め息が漏れた。まるで病院にある待合室のように殺風景なロビーで、それこそ最近の都内の大病院での診察を数時間も待って数分で片付けられた患者さんのような、とでもいうのか……。
野党が出してきた対案を、与党が単独で強行採決するという不条理極まりない場面を正直見てみたい気もしないではなかったが、まあよい。どうせこの先も理解不能な状況が次々にやってきては、我々を最後まで退屈させてくれないに違いない。

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