共謀罪シミュレーション小説「今日のキョーボー罪」
外伝「寺澤有ついに逮捕」編 その2
これはフィクションである。
共謀罪法案成立以後、寺澤の警察追及は、確実に失速していた。
内部告発を受けても、裏帳簿の持ち出しを頼んだら、窃盗の共謀罪に問われてしまう。警察のワナだったら、なおさら危険だ。
「もう、潮時か……」
あれは、高校3年生の春だった。寺澤は、自宅近くでバイクRZ250Rに乗っていて、「レーダー式速度取締機」を使った“ネズミ捕り”で、デタラメな検挙をされた。レーダーの測定値をみると、制限速度時速40キロの道路を時速60キロで走行したことになっていた。しかし、実際は、うららかな空気を満喫しようとあえてゆっくりバイクを走らせていたのだ。時速40キロも出ていないと断言できた。
当然、警察官に抗議をしたが、「お巡りさんもそんなにスピードが出ているようには思えないけど、機械でそういう数字が出たんだしさぁ、キップにもいろいろ書いちゃったから、今さらナシにはできないよ〜」という、いい加減な答えが返ってきた。
警察署に出向いて話し合いを続けたが、警察官たちは、「スペースシャトルが宇宙を飛ぶ時代に機械が間違うはずがない」と言って、全くとりあわなかった。
寺澤少年は、「ボ、ボクは、裁判で必ず無罪になってみせます」と宣言して、警察署を後にした。悔しさで身体がブルブル震えた。
本当に裁判をするつもりで反則金を払わずにいたら、後日、家庭裁判所から、調査・審判の呼び出しをしないことにした、という通知が届いた。あの取締はなんだったんだ。
あの日の憤りを原動力に、警察の不正を追及する記事を書き続けているうち、40の峠もとうに過ぎてしまった。
実は、寺澤は、秘かに小松に心ひかれていた。口にこそ出さないが、小松もそんなそぶりをみせていた。いっそ、喫茶店でも始めて、彼女にキタのママ服で店を手伝ってもえば、売り上げも伸びそうだ。残りの人生、2人で穏やかに生きていくのもいいかもしれない。柄にもなく、そんなことを考えていた。
しかし、そうは問屋が卸さなかった。
「高校の同級生で××県警にいる白川ツヨシくんが、警察の不正経理の証拠を持ち出して内部告発したいって言ってるんです」
聞いてほしいことがある、といって寺澤のところにやってきた清水は、こう切り出した。
「へええ。でも、コピーの持ち出しを頼んだりしたら、こっちまでコピー用紙の窃盗の共謀罪に問われるんだよ。知ってるでしょ? 不正経理の証拠だったら裁判で違法性が阻却されるかもしれないけど、その前に“101号室”で何をされるか分からないしね。だから、もうこの仕事やめようと思ってんだ」
すかさず清水が続けた。
「実は、白川くんは小松さんの異母兄弟なんですよ。私も最近まで知らなかったんですけど、ともかく共謀罪に反対した私たちが保証するんだから今回は大丈夫ですよ」
いつの間にか寺澤の後ろに佇んでいた小松は、潤んだ瞳で寺澤を見つめ、「弟の話を聞いてくれたら、今夜は、わたし……」と思わせぶりに言った。
びよーーーん。寺澤の鼻の下が3倍に伸びたとき、2人がぐるであることを知る由もなかった。(つづく)

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