私が銀行に入行して、3年が経過した25才の頃の話です。
その頃はひたすら仕事に打ち込んでいたというのが正しいのか、あまりにも仕事が忙しすぎて、自分を省みる暇さえなかったというのが正しいのか、そんな状況でした。
朝は8時までには出社して、帰宅は早くても午後8時、遅いと午前様と言うことがしばしばありました。
月間のノルマを達成するために、ひたすら銀行のスーパーカブで一日中走り回るという毎日でしたが、それでもこの仕事をこなすことが自分自身の成長につながると信じて、よく頑張ったと思います。
そんなある日、自分のテリトリーに新しく寿司屋がオープンしました。
その寿司屋の営業時間は、午後6時から深夜1時です。
たぶん他の銀行で融資を受けていると思われ、その肩代わり目的で訪問したのですが、夕方何度お伺いしても寿司屋は忙しい時間帯なので、大将との話はおろか、会うことさえ出来ません。
困り果てて当時支店長代理だったIさんに相談したところ、どういう訳かその日の夜、仕事が終わって、私だけ銀行近くの焼鳥屋に誘ってくれました。
たぶん仕事を頑張っているから誘ってくれたのだ、と理解していました。
しかし、ビールは最初1杯飲んだだけで、後は注文することなく、変だなあと不思議に思いながら、コーラなどで焼き鳥を食べたのを覚えています。
その時には、仕事の話は一切しないで、確か車の話と旅行の話だったと思うのですが、結構盛り上がって日付が変わってしまいました。
深夜1時になってさあ帰ろうとしたときに、Iさんがいきなり、「さあ今から行くぞ」と言って、その寿司屋に向かうではありませんか。
寿司屋の大将はちょうど後片づけをしている最中で、私とIさんがそんな深夜に来て驚いた様子でしたが、「君たちには負けた」とじっくり話を聞かせて下さいました。
その後数千万円の融資をこぎつけて、金利が少し安くなったため、大将もとても喜んで下さいました。
忙しい時間帯に行っても話を聞けないのであれば、相手の都合を考えて、空いた時間に出掛ける、それが営業の鉄則だということをIさんは教えて下さいました。
そのすぐ後の人事異動で、Iさんは次長にご栄転され、今はベテランの支店長で頑張っておられます。
私も転職したものの、営業の極意は心に刻み込み、その後どれだけの学校を訪問して校長先生や教頭先生にお会いしたことでしょう。
営業の目的を達成するためには、単刀直入に物事を進めるのではなく、まず自分自身をPRする事から初めて、その担当者から信頼を得ることがとても大切です。
同じ商品が他の店より安い値段であれば、売れるのは当たり前で、他より高いにも関わらず、それを売り込んでくるのが営業の実力だと何度も聞かされました。
道しるべも今年はご家族などのリピーターの方に沢山ご利用いただき、ほとんど営業はしない毎日なのですが、少しずつ安心できる旅人の宿として信頼を高めて行ければと考えています。