「一生に一度の会だから、心を込めてお客様をもてなす」という茶道の心得を言った言葉が一期一会です。
また一般的には、人と人の出会いを大切にする、と言う意味で使われます。
今まで私が旅をしてきた中で、お客さんととても親しく話す宿のオーナーがいました。
酒を一緒に飲んで、まるでお客さんと友達のように話をします。
しかし、そのオーナーは考え方に甘えがある、と私は思います。
たった一度の出会いを大切にするからこそ、一生のお客さんになっていただけるのです。
もう二度と出会うことがないと思うから、大切にしたいと考えます。
そのことがわかって下さる方は、またお越し下さいます。
結局宿の仕事は、人と人の出会いなのです。
観光地を訪れても、どんなに有名な美術館や博物館を訪れても、そんなに親切にして下さる方に出会うことはあまりありませんが、宿の中ではその一期一会が実現するのです。
私は宿のイベントなどを除いて、初めてのお客様の前で酒を飲むことは絶対にしません。
お客様が食事を終えて、消灯時間を過ぎて、自分の部屋でビールをたしなむことはありますが、オーナーが酒を飲んでいる姿をお客様に見せると言うことは、サービス業としては失格だと思います。
お客様と話をする時間も大切な業務の一環ですから、恥ずかしくない態度で接することがマナーです。
今から20年近くも前のことですが、宿に宿泊していた中学生が深夜にてんかんを起こし、車を運転して20キロも離れた病院まで運んだことがあります。
てんかんは私は初めて見たのですが、ものすごいけいれんを起こして、どうにかなるのではないかと心配でした。
田舎の宿だったので、救急車を呼んだのでは時間がかかると判断して、病院に連絡し、私が運転していきました。
あの時、もし私が酒を飲んでいたらどうなったことでしょう。
その時以来、団体などの利用があるときには、消灯後でも酒は控えるように心がけています。
宿の中ではどのような事態が発生しても、オーナーは迅速かつ冷静に対応できる心構えが必要です。
今日初めて出会うお客さんが、私の一生のお客さんになるのですから、大切にしたいと思います。
まさにそのことが、一期一会なのです。
宿の談話室にある額は、高名な先生に書いていただいた作品です。
