織田信長は若い頃、今川義元と対峙して、桶狭間で1人敵陣に飛び込んでいきました。
死をも覚悟した行動でしたが、義元が油断して酒宴をしていたこともあり、一気に首を取ったのです。
そして、それ以降は天下統一まであと一歩、というところまで登りつめるのでした。
さて大相撲の秋場所。
大関豪栄道が迎えるカド番は、名古屋場所からの2ヶ月間、ものすごいプレッシャーを感じていたと思います。
実力もさることながら、冷静に15日間相撲を取ることができるか、という気持ちの問題で星が決まると言っても過言ではありません。
「もし負け越したらどうしよう」
と考えなかった日はない、と思います。
そして始まった秋場所。
白鵬の休場はあったものの、豪栄道は初日から開き直って連勝を伸ばし、5連勝した頃からカド番は脱した、と思っていました。
でも今場所は、気持ちの上での油断や緩みはありませんでした。
そして、勝ち越しどころか何と全勝優勝で、初めて見る賜杯を手にしたのです。
まるで背水の陣だった信長が、義元の首をとった時のように。
しかし豪栄道の初優勝は、あまりにも遅い気がします。
初場所で優勝を狙う琴奨菊と対戦した時も、あっさり負けてしまう優しさが、横綱昇進を阻んでいたのかもしれません。
大関に推薦したことを悔やむ審議委員もいたと言います。
そして今場所は白鵬の休場という千載一遇のチャンスで、しかも日馬富士も鶴竜も絶対ではありません。
そのため各紙では今場所の混戦を予想していました。
本命は大関稀勢の里でしたが、初日から黒星と、このチャンスを活かすことはできませんでした。
振り返れば、昔から輪島、北の湖、千代の富士など絶対的な横綱が存在して、角界を引っ張ってきました。
そして、必ず世代交代の大一番が歴史を変えてきたのです。
すでに優勝を決めた豪栄道は、千秋楽に大関同士の琴奨菊と対戦しました。
その優しさから、もしかして土をつけられるかもしれない、と思いましたが、見事寄り切りで雪辱を果たしました。
日本人としては何と20年ぶりの全勝優勝です。
信長は天下の一歩手前で本能寺に倒れました。
今場所を見る限り、豪栄道の強さは本物だと思っています。
信長でさえ恐れた武田信玄のような白鵬を倒してこその天下統一を、成し遂げることができるかどうか、戦の舞台になる九州は盛り上がりそうです。
ちなみに、信長愛用の名刀「へし切り長谷部」が福岡市博物館に眠っているのも、何かの縁だと思えて仕方がないのです。