宮城県鎌先温泉にある老舗の「木村屋旅館」が廃業したそうです。
大学時代にユースホステルに契約していたので、一度だけ利用したことがありました。
東北本線の白石駅からバスに乗り約20分、鎌先温泉にその旅館はありました。
玄関で「こんにちは」といくら挨拶しても誰も出てこないので、勝手に上がると
「勝手に上がらない」
といきなり酷く叱責されて驚きました。
そして、狭い部屋の相部屋に初対面の旅人4人が押し込められ、しかも3月で寒い時期なのに部屋には暖房がありませんでした。
そのためコタツを一晩中点けて、みんなが足を突っ込んで、寒さに震えながら寝たことを覚えています。
また食事は自分で厨房まで取りに行くのですが、厨房のドアを開けると、
「そこから入らない」
と再び大声で叱られました。
チラリと横目で見ると、料金の高い一般客とは異なり、一汁一菜のとても質素な食事でした。
そして、他のお客さんに見られないように部屋で食べました。
当時、一般的に公営ユースホステルは食事が質素なことは知られていましたが、有名旅館なのにそれ以下の涙が出そうな食事でした。
しかし温泉は広い岩風呂で、貸し切り状態でした。
何も悪いことはしてないのに、叱られるために旅に出たようで、悲しみに沈んでいたところを温泉だけは温かく癒してくれました。
翌朝、玄関で
「お世話になりました」
と挨拶しても、フロントの人は黙ったままで、最後までとても嫌な気分でした。
そして「ここには二度と来ない」と誓ったのでした。
ユールホステル協会も、契約の時にきちんとチェックして入会させないと、全体の評判が落ちるのは目に見えています。
木村屋に泊まって「また行きたい」と思う人は皆無でしょう。
ユースホステルの中には「名寄サンピラー」さんや「東大雪ぬかびら」さん、「勝沼ぶどう郷」さんのように素晴らしい施設もあるのに、最悪の一部の施設が足を引っ張っているのが残念です。
宿の良さとは、施設の良さではなく間違いなく「人の良さ」です。
夜に電気をケチって真っ暗にしたり、タメ口で電話応対したり、掃除が十分でなかったりするとそれではもうダメです。
料理が美味しいなんてのは、今は当たり前の時代で、それではお客さんを呼べません。
先日のお客さんは、あるゲストハウスで
「前の人のゴミ箱を捨ててなかった」
と自慢気に他のお客さんに話していたので、これはマズイと思い、
「そんなことは珍しいですね、忙しかったのでしょう」
と何故か私が言い訳をしてしまい、笑ってしまいました。
旅先の良い口コミは、噂が広がるのには3ヶ月必要なのに、悪い口コミは「3日で全国を駆け巡る」と聞いたことがあります。
以前も書いたと思いますが、サービス業は「捨て目が効く」ことは、とても大事だと思います。
旅人、特にお遍路さんは疲れているので、ちょっとしたことが嬉しいものです。
駐輪場には夜間の自動点灯ライトを設置するとか、雨が降った日の夜にはシューズドライヤーで靴を乾かしておけば、翌日は気持ちよく履くことができます。
寒い日のライダーには、
「先にお風呂どうぞ」
と案内すれば、夕食の時には瓶ビールの1本も売れるというもの。
洗濯機の使用料も洗剤も無料にすれば、気軽に旅で汚れた衣類を洗濯出来るので、とても喜ばれます。
自分が旅人になって、どうすれば嬉しいかを考えれば、そんなに手間も費用も掛かるものではありません。
気に入って、またお越しいただければ十二分に元は取れるのですから。
昔、どこかで「スマイル0円」のキャッチフレーズがありましたが、それは経営者からの視点であり、お客さんの立場になれば無料でも嬉しいサービスは沢山あるものです。
ユースホステルには生涯で200泊くらいはしていますが、その中でも木村屋は「ワースト1位」を争う宿でした。
「捨て目」ではなくて、悪いことをして「監視」されてる感じだったので、今でもよく覚えています。