NHK-BSの短編ドキュメンタリー「泌みる夜汽車」を見ました。
夜汽車には、その町で住んでいる人々の喜怒哀楽だけでなく人生のドラマがあります。
飛行機やバスの別れだと「じゃ、サイナラ」で済みますが、ブルートレインの夜汽車だと次第に夜の闇も深くなり、寂しさが募ります。
夜行列車とかブルートレインと言わずに、「夜汽車」の言葉の響きも時の流れを感じます。
新幹線もそれに近い別離がありますが、何の旅情もない電子音に急かされるし、出発すると一瞬で終わります。
それに比べるとフェリーは長い時間少しずつ離れて行くのですが、やはり遠いので顔が見えません。
旅情を掻き立てるには、やはり夜汽車が一番です。
しかしこのドラマの場合は、「人の情けが身に泌みる」ストーリーです。
大井川鉄道の駅前で、500円食べ放題の食堂を営んでいるおばあさん。
地元で高齢の独居老人のために週3日弁当を作り、配達までするのはなかなか出来る事ではありません。
また半世紀の間、駅弁の釜飯を作り続けたご夫婦の話。
笑顔の絶えない明るい夫婦でしたが、作る数が半端ないので、きっとご苦労だったことと思います。
昭和50年代には窓が開かない特急が増えて、売り子から買う駅弁の販売は激減しました。
しかし辞める決意をした最終日、常連さんが買いに来てくれて、1日で380個が売れました。
また、女子高生が素直な気持ちで書いた伝言板に、ある日返事がありました。
悩みを書くとその都度返事があったのですが、誰が書いたか分かりません。
そのため自由に書けたのだと思いますが、思春期を陰で支えてくれたことは間違いありません。
駅員さんにすれば単なる迷惑な落書きだったことと思いますが、そこには青春があったのでした。
また、自閉症の青年が、好きな列車の絵を描き続けた話。
会社に就職しても、馴染めずにすぐ辞めてしまいます。
子供の将来を考えて、最初両親は反対していましたが、ついに根負けして展覧会を開くようになりました。
今ではその絵は値段が付いて売れるそうです。
山下清画伯と同じく、景色を見ただけで記憶して、後で思い出しながら描くのだそうです。
両親がその才能に気づいただけでも幸せでした。
最後は、運転士を夢見た精肉店の青年の話です。
大阪市交通局に就職しましたが、父親が倒れたため退職して精肉店の仕事をしていました。
そんなある日、紀州鉄道から声が掛かって運転士の夢は実現しました。
「願いは必ず叶う」話でした。
全ての人の青春や人生は、間違いなく夜汽車から始まると思っています。
暗闇の中、ヘッドライトだけを照らしながら暗中模索で人生のスタートを切るのです。
そして闇が終わり、陽光が差すと長い人生が始まるのです。
そんな様々な思いが詰まった、鉄道に関する思い出深いストーリーでした。
鉄道、しかも夜汽車という人生は記録映画ではなくて、人間の喜怒哀楽が詰まった一つの長編映画だと思っています。
今後も「泌みる夜汽車」は続くので、楽しみにしたいと思います。