さて、天皇賞。例のトラブルがあろうがなかろうが、勝っていたのはメイショウサムソンであったでしょうね。
それから、いろいろな波紋を呼んでいるコスモバルクに関する件について。
まず前提として、事実がどうであれ、不利を受けた馬の馬券を持っていたファン、危険に晒された騎手同士は何を言っても構わないと個人的に思っています。ファンは大事なお金を張り、騎手は命を張っているわけですからね。
と同時に、ファンサイドに限定した物言いをすれば、これも競馬のうち(微妙に意味は違うが、野球における誤審と近いものがある)であるということも認識しておいてほしい。逆に不利を受けた馬がいたために取れた馬券というのも、長い間には間違いなく存在するのですから。そして、こうした不確定要素の上に競馬は成り立っているのです。
ここまでが大前提で、以下は、パトロールを何度も見直した上での個人的な感想と意見です。問題は、騎手サイドからこの件を見た場合に尽きるでしょう。
まず、五十嵐騎手は何の言い訳もできない騎乗だったと思います。例えば、バルクの左回りでの癖に帰結させて庇う論調も出てきているようですが、それはちょっとどうかと。第一、これまでも馬がこういう癖を見せていることを認めるのなら、なぜそれを回避せずに繰り返すのかと。
レースをよく見れば、分かる人には分かると思いますが・・・
バルクは、3歳時のルメール騎乗のジャパンCでは、同じ左回りでも全く問題なく走れているのです。東京で悪癖を見せているのは、残念ながら五十嵐騎乗時のみ。
その原因は、まず当たっていると思いますが、バルクではなくて五十嵐騎手の「悪癖」にあると見ています。
彼は、バルクに乗って東京で騎乗した際に、まず必ずと言っていいほど、4角を回って鞭を抜く直前に、肘を張りながら右手綱を強く外へ引くのです。(ダービーが一番わかり易い)そして直後に重心が大きく右へ流れます。
今回もそうですが、バルクがこれに反発して一度外へヨレてから、内へ逃げる動作を見せるのは、ダービーでも、去年秋の一連の東京戦でも、そして今回も、決まってその直後。コーナーリングも終わっているところですし、なぜ五十嵐はあんな動きをするのか理解に苦しみます。気持ちの高ぶり、さあ行くぞという闘志の表れ・・・なんだと思いますが(ファイター型の騎手ですし)、果たしてこのことを本人は分かっているのでしょうか?おそらく無意識なのでしょうけれど・・・。
なおこの所作は、今年の春の中京で小牧騎手がダノンムローで「自爆の落馬」をした際のものと同じです(彼の場合は引き手が強すぎてバランスを崩したのです)。
話を戻すと、今回の五十嵐騎手のもう1つの大きな問題は、バルクが内へ動いたときの、リカバリーを取るタイミングが遅い(対カンパニーへ与えた被害として)。もちろん気がついて持ち替えて制御してはいるのですが、内へ入り始めてからも右鞭を何発か入れてしまっています。
さらに直接の加害馬となっているエイシンデピュティが動いたのは、明らかにバルクが大きく蛇行を始めた直後。これは間違いなくコスモバルクの動きに驚いたものです。
続いて、処分の程度について。五十嵐が戒告、柴山が4日間停止ですが、これは降着制度の盲点によるものでしょう。どれだけ大きく動こうと、直接の影響を与えていない限りはセーフという「原則」です。もしバルクがエイシンにぶつかっていたら、処分はバルクだけだったはず。しかし今回はバルクが直接エイシンにぶつかっていないこと、さらにコスモとエイシンの間隔が空いていたことから、直接外の馬にぶつかったエイシンの柴山への処罰の方を、重くせざるをえなかったというわけです。
これは下らない仮定ですが、私が裁決委員なら、「柴山2日間、五十嵐4日間以上」の停止という処分を提案します。まあ日数は素人考えですが、処分については柴山<五十嵐にすることは間違いないでしょう。
それはさておき、個人的には、藤田や角田、あるいは内田博、再度ルメールが乗って大舞台に立つコスモバルクが見たいです。酷な意見かもしれませんが、バルクには五十嵐は合わないというのは皐月賞を見てから痛感していたことなので・・・。
最後に、騎手たちの反応について。これについては、先に述べたように、当事者の騎手同士は何を言い合っても、どんなキツイ言葉を浴びせても構わないと思います。それを踏まえた上で、また個人的な見解を述べると・・・
福永騎手の「あれがなければ2着だった」については、カンパニーは最後脚が上がっていたし、アグネスに差されたものなので、アクシデントがなくても着順は同じだったのでは?あるいはアドマイヤムーンの切れに屈していた可能性もありますから、さらに下げていたかも・・と、これは仮定の話ですけど。
問題の「福島で乗ってろ」云々は、ここだけ取れば福島蔑視みたいに聞こえますが、おそらく先週の福島がみんな外へ大きく張り出して乗っている馬場傾向になっていたことを受けての喩え話でしょう。ただ、配慮を欠いた発言には間違いない。「じゃあお前は福島で今後2度と乗るな」と言われても仕方ないですね。
安藤騎手の「あのバカ」発言(五十嵐、柴山、どちらへのものであったにせよ)は、特に問題ないのでは?「あれがなければ自分の馬が勝ち負けできた」とは言ってないので、おそらく着順どうこうよりも、単純に騎手の大先輩として、危険な騎乗をしたことについての非難だったと思います。それならば、命を張っていない人間にどうこう言う事はできません。
手応えが残っていたという点で、着順という点で、最も悔しかったのは岩田騎手でしょう。ただ彼も意図しているのかしないのか、4角で軽く外へ張り出す癖があって、今年も複数回停止処分を喰らっているのですから、あまり言えた義理ではないような気もしますが・・・(苦笑)。とはいえ、彼の身も危なかった事は確かで、上に書いたことと同様です。
いずれにせよ、騎手の発言はレース後だと過激になりがちなので、マスコミが飛び付きやすかったということは言えるでしょう。その分、事が大きくなったのは確かなんですけどね。それは残念です。
16年前は、今回の勝利騎手の武豊が、マックイーンの大斜行で競馬史に残る降着事件の加害者となっていますし、1番人気の累々たる敗北の歴史(その中にはルドルフのまさかの逆転負けやサイレンススズカの悲劇もありました)、何年か前の吉田と後藤の殺気だった異常な逃げ合いなど・・・・秋天は生臭い歴史が続いていますが、事故だけは起きてほしくありません。今回は事故一歩手前で留まったことは、被害馬とその陣営にとっては、不幸中の幸いだったと言えるでしょう。

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