昨秋と先日、競馬ブックの「一筆啓上」というコラムで、読後に著しく違和感を覚えたものが2つあった。本当はもっと早く指摘しておきたかったのだが、年末の忙しさやら何やらで後回しにしてしまってきた。いい加減書かないと、自分の中でも風化してしまうので、敢えて書かせてもらう。
それは共に石川ワタル氏の書いた記述である。氏のコラムについては以前にもここで辟易とした旨を記した。これで3回目、私はつくづく氏とは相容れない競馬観を持っているのだろう(苦笑)。
その1つ目は、10月21日号の記述。要約すると、凱旋門賞でディラントーマスを降着にしなかったことをまず支持し、「日本の降着制度は厳しすぎる⇒しかし日本では昔は甘かった。83年のダービーでミスターシービーのゴール前の内への大斜行を、裁決委員は見逃した⇒なのに06年の女王杯で、カワカミプリンセスを降着としたのはオカシイ。スターホースが大レースの降着で潰されるのは見たくない⇒レースの大小で基準に差をつけ、GTでは甘くすべきであり、今回のフランスでもその論調があった⇒だから日本のGTでも、後続を落馬させた場合のみ失格とするなど基準を変えるべきである」
(この要約が私の意図により歪曲されたものでないことは、バックナンバーで氏のコラムを見直してもらえば分かって頂けると思う)
まず、あらゆる問題についてはさまざまな意見が出て然るべきであり、その点ではこの意見も存在意義があるものだということは確認しておく。その上でなお、この意見には全くもって一片も同意できない。
83年ダービーにおけるミスターシービーは、別に裁決委員に「見逃され」てはいない。失格にしなかったという意味で「見逃した」と書いたのなら、これは間違った解釈を生みかねない不用意な記述である。
なにせ古い話なので、この件について改めて記しておく。
このダービーではミスターシービーの吉永正人の騎乗について、2件審議されている。1つは、4角で内から外へ膨れ、キクノフラッシュを大きく外へ弾いた件。これについては、シービーのさらに内にいたタケノヒエンが外へ出てきており、これに押圧されながらシービーも外へ出たもので、吉永騎手の過失は小さいという判断を、当時の裁決はしている。
もう1件は、直線で外から内へ切れ込んできて、ブルーダーバン他の進路をカットした件。これについては、注意義務を一部怠ったものと判断している。
その結果、吉永騎手は、実効4日間の騎乗停止と、ダービー優勝カップの剥奪という処分を受けている。
(なお私は、断固失格をラジオで主張した大橋巨泉氏へ反対の意見〜その意味では氏と同じ立場ではあるが、立脚点は全く違う〜を当時送り、日曜競馬ニッポン内で2週にわたり取り上げられてやり取りをしているので、上記の記述には間違いがないことを書き添えておく。のちに巨泉氏は裁決委員と直接談判しており、その結果を踏まえてある)
そしてより問題なのはこちらである。GTだからセーフということにしたら、これは降着制度の根幹を揺るがしてしまうもので、あまりに身勝手だ。
落馬しなければいいというけれど、女王杯では確かに落馬こそなかったものの、本田騎手の斜行が原因となって、ヤマニンシュクルという1頭の名牝が大怪我を負い、競走生活を絶たれたのだ。これについてはどういう説明をするのだろうか。落馬さえさせなければ、極論すれば馬を死に追いやるような事態を招いても仕方ないということなのだろうか?
しかも、氏は凱旋門賞でディラントーマスが降着にならなかったことの解釈として、「過去の成績から、ユームザインでは優勝馬にふさわしくないということなのだろう」と記してもいるのだ。レースによってふさわしい勝ち馬とそうでない勝ち馬がいて、後者が勝つことは間違いであるかのような思考回路とは一体どういうことだ?実績馬が勝つように、主催者に掌を加えろというのなら、これはもう競馬ではないだろう。
もう1つは、今年1月12日号のコラム。ここで石川氏は、相も変わらず日本競馬の「ノブレスオブリージュ」を根拠に、再びディラントーマスを持ち出してきた。今度は、ジャパンCでの出走資格喪失の件である。出走を認めなかったJRAの態度は世界の趨勢に背を向けるものであり、日本の検疫は外国に比べて厳しすぎるというのだ。「オブライエンがこれまでクールモアから何度もEVAワクチンを接種して日本へ送って何の問題もなかったのに、今度は何でダメなのかと不満タラタラなのだが、これは種牡馬の話で、競走馬については別の話であることを、世界に名だたる名調教師でさえ知らなかった」と書いていて、陣営のミスを認めてはいるのだが、これは、JRAの告知が足らないことが招いた、としている点がなんとも腑に落ちない。
まあこれも、百歩譲って考え方の1つではあろう。ただ石川氏は、ディープインパクトの事件の時は、陣営の過失を不勉強で恥ずべきこととしているのだ。これと矛盾してはいないだろうか。なぜ池江陣営を叱責して、オブライエンだと擁護するのだろうか。ディープの件もディラントーマスの件も、どっちも管理者側不注意によるものであり、今後さらに氏が熱望する国際化が実現していくなかで、感染リスクの高まりを鑑みれば、検疫防疫の問題はむしろもっとシビアに対応していくべきものであろう。その点で、同様に過失であり、この過失については共に責められるべきものである。
ハッキリ言わせて貰えば、石川氏の幹にあるのは、「日本競馬はダメ、欧米競馬こそ至上のものである」という価値観としか思えない。
石川氏とは比べるべくもない、「品格の足らない」書き手である私ではあるが、競馬マスコミの末席の末席を汚す者として、やはり何か書かずにはおられなかった・・・ということで。内容を思えばブログ程度が適当な場と判断してここに記した。長くなって申し訳ありません。

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