かつてヴァイキングやホワイトファルコンに搭載されていた特殊な機構に関し、的確に解説した文章をウェブ上に見つけたので引用する。ギターマガジン誌とYahooが提携したポータルサイトの一部のようだが、連載自体は中途半端に終わったと思しい。ともかく僕の舌足らずな説明より、よほど上等である。
解説されているのはあくまでホワイトファルコンなので、もし万が一ヴァイキングの歴史をお調べでしたら御注意を。
「まず、1959年に発表されたプロジェクト『O』ソニック・ステレオ・システムと呼ばれる機能。これは各ピックアップ内のボビンが1〜3弦用と4〜6弦用に分割されており、それぞれ個別に出力できるようになっていた。フロント/リア、左右のボビンの選択、トーンのコントロールと組み合わせて、なんと54通りものサウンド・バリエーションを生み出せるという驚異的な仕様であった」
この機構は僕のヴァイキングには無い。搭載されているホワイトファルコンも、十代のころ一度試奏したきりである。便利とは感じなかった。しかし夢があるね。
「1964年に登場した、『Tゾーン・テーパード・トレブル』というフレッティング法も、本器だけのユニークな仕様だ。後述する『フローティング・サウンド・ユニット』などのブリッジを搭載する時に問題となるハイ・ポジションでのチューニングのズレを解消するために、12フレット・ポジション以上のフレットの1弦側をわずかにブリッジ側に傾けて打ち込まれるという独特なもの。
ブリッジ側をズラすのではなく、わざわざ手のかかるフレットの方をいじることに、ホワイト・ファルコンに込められた強いこだわりがうかがえる」
これを書き忘れていた。キャプテン・フックこと僕のヴァイキングもこうなっている。最初フレット打ちが出鱈目なのかと思った。手間暇の割に普通のブリッヂ補正以上の効果がないとか色々あるのだが、ビグスビィ製らしいノン・アジャスタブルのブリッヂを僕が平然と使い続けていられるのは、この配慮のお蔭である。
「1966年に追加された『フローティング・サウンド・ユニット』は、本来のブリッジ部分にフローティング・ブリッジと呼ばれるユニットを設置。そこから伸びた大型の音叉がボディ内部の空間に取り付けられ、弦をはじくとそれらユニットが共鳴を起こし、ギター全体の倍音構成が複雑に変化するというとんでもないものだ。
弦交換の際、異常な手間がかかることから一般への普及はいまいちだったが、最高機種に相応しい機能と言えるだろう」
前項で僕が「音叉を兼ねた機構」という表現している奴。この搭載が無い点だけに於いても、キャプテン・フックは1964〜65年製と特定できる。
当該サイトにも言及が無かったのは、ボディバックにスナップ留めのクッションが付いている事。その下には大穴があってプラスティックの蓋で塞がれている事(開けると配線をいじり易いので意外と便利)。ギター音全体のオン/オフという、あまり有用性を見出せないスウィッチがある事(楽器というのは弾かなければ常にオフである)。それからこれはグレッチ全体の特徴なのかな、なんとトーンがポットを廻すスタイルではない。籠もった音/素の音/別の籠もった音、という三ポイントのトグルスウィッチなのだ。
トーンの絞りというのは意外と難しく、若いギタリストは大概、徹頭徹尾、全開である。昔の俺もそうだった。今もリッケンバッカーなど概ね全開だが、「フレーズによっては、ちょいと絞る」というのを、騙されたと思って試してみてください。最初からギターに付いている機構だから金はかからないうえ、効果絶大である。
どんなトーンポットでも、ゆっくりと絞っていくと、不意に音が大きく変化する「半開き」ポイントが見つかる。ここが美味しい。ちょっと人の声のようなニュアンスがある。これを予めプリセットしようと考えたグレッチは親切だ。でもちょっと親切過ぎる。
普通のギターでの話をする。例えば歌のバッキングを「半開き」ポイントで弾いておいて、歌が消えるや、ソロという訳ではないけれどトーンだけ開いて同じ事を弾く。音量は殆ど変わらず、なのに煌びやかなギターが重なってきたようなニュアンスが出る。
場面を切り替える、などとは考えないほうがいい。指がちょっと触れたという程度に、僅かに廻すのだ。歌うように、連続を保ちながら変化をつけるのだ。

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