新しいブースターを入手しただとか、キャプテン・フックことグレッチのヴァイキングに新たな改造を施したとか、色々とネタはあるのだが、今晩は楽器の「鳴り」について。
雑誌にもウェブにも、このギター(ベース)は鳴る、鳴らない、という表現が溢れている。喧々囂々の議論が起きもする。人によって「鳴り」の定義が違うのだから、話が噛み合う筈がない。
アコースティックギターを弾いて、ボディやネックに絃振動を強く感じれば、おお、鳴っている、と思う。これはこれで間違いではないが、路上の聴衆も一緒に振動を感じてくれる訳ではない。アンプに繋がずに弾いても明瞭に音が聞えるエレキギターを、「鳴る」楽器として売っている楽器店は無数にもある。エレキギター購入者の大半は、けっきょく家でアンプに繋ぐことなく爪弾くばかりだったりするから、これを「鳴り」と称して問題ないのかもしれない。
ライヴの現場で使う楽器となると、だいぶ話が違ってくるというか、定義が明瞭化してくる。当然すぎる結論で恐縮だが、アンプのボリュームが同じでも「音がくっきりと前に出る」「何を弾いているのか明瞭な」楽器が、当然「鳴る」楽器だという話になる。
ピックアップ・マイクの出力は構造によってまちまちだが、アンプのセッティングやスピーカーが同じである以上、「くっきり」感への影響は意外と僅差だ。数値的には高出力なハムバッキング搭載のギターより、巻きの少ないシングルコイルの鋭い音色のほうが目立つことは、ままある。
では耳につく高域を強調すればいいのか、と短絡するのが最も危険で、昔の僕もそうだった。それはね、単にうるさいぞ君。シンバルと被るぞ。なにより倍音が強調されてしまい、複雑なコードが単に気持ち悪い和音になってしまう。ルートが不明でコード進行の流れが見えない。コンサートで、ピエゾ・ピックアップ搭載のアコースティックギターで掻き鳴らされているイントロが、五度くらい上に聞えたりするでしょう? あの現象。
最初に書いた「鳴り」はプラス計算の鳴り、ライヴ現場での「鳴り」はマイナス計算の鳴りだ。振動し易いボディや構造を採用することにより、プレイヤー自身へのフィードバックを強めてあるのが前者で、これはこれでニーズが有り、べつだん否定はしない。
ただし云っておく。「これは鳴る」と御自慢のアコースティックギターやウクレレ、それを作るのはとても簡単な事なのだ。ボディトップを薄くすればいい。とりわけウクレレではポピュラーな工法で、ウクレレが経年変化に弱い理由の大半はそこにある。
後者の「鳴り」は、「特定の音程を発するため」のものである絃振動への、幾多の阻害要素を、どれくらい押さえこめるかで決まる。逆反りしたネックや、緩いナットを持つギターで、びよーんと倍音しか出ない現象、多くの人が経験があると思う。極端に絃振動が阻害されている状態だ。ピアノは(打)弦楽器だが、フレットを持たないがゆえ、これに類する現象は滅多に起きない。完全人力楽器としては異常な程の音量は、贅沢なボディ構造に負うところが大きいが、それを差し引いても、音の押出し、分離、サスティン、いずれも楽器のなかで群を抜いている。
乱暴に云いきってしまうと、ピアノの状態を目指せば、現場でのギターの「鳴り」は向上する。聴覚上、倍くらいにまでなる。小さなアンプで済む。通常のライヴハウスだと、15W程度のアンプで充分になる。
阻害要因はたいがいネックにあるので、これをヒートベント(加熱しての矯正)したり、フレットを摺り合わせたり――ピックアップ交換などに比べると地味な改造だけれど、プロの楽器の、ボディは無茶苦茶な状態でも、ネックが無茶苦茶という例はたぶん無い。本物の楽器(リペア)職人だったらネックの理想的スペックをわかっている筈なので、ちゃんとそれに近づけてくれる。多少工賃は高くても(あんがい安かったりするのだが)、プロの楽器を扱っている職人に頼むのが無難かな、と思う。自分で出来ればいいんだけどね。
僕の経験上、以下の部分は、後者の意味での「鳴り」には(ほとんど)関係が無い。音色には関係する場合もある。
絃巻き。ヘッド形状。ナットやブリッヂの材質。ネック・ジョイントのシム。ボディ材とその構造。電気パーツ全般。ヴィブラート・ユニットの方式。楽器の値段。

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