前回出てきたC69だが、ちなみにジャンゴは恐ろしい押さえ方をした。手の大きい方ではない僕は、ちゃんと出来るまでに一年くらいかかった。
+−+−+●+
+−+−+●+
+−+●+−+
+−+−+●+
+−+−+●+
+◎+−+−+
8
ジャンゴの薬指と小指は火傷で萎縮していたものの、同ポジションの隣絃同士を押さえる事はできた。第一絃と二絃は小指、薬指で押さえる。三絃は人差指。あと三本の絃は? 四絃と五絃は中指を寝かせて押さえた。残る六絃は拇指で反対側から。
ロック系の人に六絃を拇指で押さえる人は多いが(僕もそう)、他絃をこう丁寧にフォローしながら拇指も使うという、その発想自体が異常である。僕はこれをやり始めてから、この歳にして左の拇指が伸びた。いや本当に。
さて〈Sleepwalk〉の続き。前回、自分にとって当然すぎる話なので必要性を感じず記さなかったけれど、ザ・ブライアン・セッツァー・オーケストラのこの演奏は『Dirty Boogie』というアルバムに入っている。名盤なので買って損はない。
Aメロ二巡目、最初のCからAm7。いきなり複音のトレモロで肝を抜かれる。ポジションを示す。
+●+−+○+−+○+
+−+−+−+−+−+
+−+●+○+−+○+
+−+−+−+−+−+
+−+−+−+−+−+
+−+−+−+−+−+
8
二本の絃を、(映像で確認したところ)ピックと中指で交互にタリラリとやりながら、十二フレットまで上昇する。しかも後でダブルチョーキングしているので、最初は人差指と中指、その後は薬指と中指で押さえるが吉。
左手はまあ問題ないとして、実のところ僕は右手がセッツァー同様に行かない。指先の形にも起因するのだろうが、三絃の音ばかりが目立ってしまう。で、拇指と人差指でやっています。ピックはどこに?
セッツァー独自の奏法にも関連する話なので特記しておく。拇指を使うフィンガーピッキングの際、彼はピックを、人差指を使い掌に握り込んでいる。だから人差指は使えない。
僕は――と比較のように記せる腕前ではないが、参考までに――昔からの癖で、拇指でもって人差指と中指の間に押し込み、そこに挟み続けている。人差指と中指は器用な指なので、ピッキングに苦はない。ただピック弾きとの切替えはセッツァー方式の方が早い。僕自身、いま自分がどうやっているのか実演してみて分かったのだが、どうにも間に合わない場合、拇指の爪をピック代わりにして繋いでいた。ウクレレのやり方だ。
FmからG7(一巡目はFm7だったが、セッツァーはあまりセヴンスに拘っていないので、ここからはFmとする)は、演奏として素朴な複音だが、理論的にはそれなりの御託になってしまう。
+−+−+−+−+−+
+●+−+○+○+−+
+−+●+−+○+○+
+−+−+−+−+−+
+−+−+−+−+−+
+−+−+−+−+−+
6
ええと分かるかな、要するに平行移動です。指の形はそのままに、上って下る。
最初の二音はF音とその六度の音、即ちFm6を弾いていると解釈でき、次は経過音と解釈でき、G7の時はそのセヴンス即ち減七度とb13を弾いている。一巡目でG7(b9,b13)が登場したのにも関連するのだが、トニックに戻る前のセヴンスは無礼講。とりわけ短三度の移動には寛容なので、こういう事も可能になる。
次のCとAm7は普通。しかしFmからG7に至って、恐ろしく格好いい事が起きる。ビッグバンドならでは官能的なハーモニィを、そのままギターでシミュレートしている。まずFm11。
+●+−+−+
+−+−+●+
+−+−+●+
+●+−+−+
+−+−+◎+
+−+−+−+
8
6フレットをセーハして、8フレットは中指、薬指、小指で押さえる。これもちょっと難しい。次いでG7に於いて、
+−+○+−+ +−+○+−+ +−+○+−+ +−+●+−+
+−+−+◎+ +−+−+●+ +−+−+◎+ +−+−+●+
+−+○+−+ +−+○+−+ +−+○+−+ +−+○+−+
+●+−+−+ +○+−+−+ +●+−+−+ +○+−+−+
+−+−+−+ +−+−+−+ +−+−+−+ +−+−+−+
+−+−+−+ +−+−+−+ +−+−+−+ +−+−+−+
8 11 8 5
というスライド芸。人差指、中指セーハ、薬指で押さえる。G7に合致している音を○(と◎=G)で記した。
上述の「セヴンスは短三度移動に寛容」の理由が見て取れると思う。セヴンスコードは音が短三度幅で重なっている部分が複数あるので、三フレット平行移動すると別の構成音と出合う事が多いのだ。
二巡目の残りは、前項で解説した基本的な弾き方。次はいよいよBメロだが、寸前の「Aメロの結末」に、
+●+−+○+ +−+●+−+○+
+●+−+−+ +−+●+−+−+
+●+−+−+ +−+●+−+−+
+●+−+−+ +●+−+−+−+
+−+−+−+ +−+−+−+−+
+−+−+−+ +−+−+−+−+
1 3
という、これまでの倍速の上昇が出てくる。これまで通りの思考でいけばFm7からG7(b9,b13)、及び経過音。しかし伴奏はどうやらDb7に行っている。G7の裏コードだ。裏コードのなんたるかを解説している暇はないので、各自検索してください。
一見、最後のCへと行儀良く上昇しているようでいて、ルートは先にCを通り過ぎている。で、半音降りてくる。そういう浮游感を伴ったワンセットのキメと捉えた方が、理解しやすいかもしれない。即ち、
+●+−+○+ +−+●+−+○+
+●+−+−+ +−+●+−+−+
+●+−+−+ +−+●+−+−+
+●+−+−+ +●+−+−+−+
+−+−+−+ +−+◎+−+−+
+◎+−+−+ +−+−+−+−+
1 3
ルートの動きを味わってみてください。結末は勿論Cだ。
この最後のコードCで、単音のメロディ弾き(駆け下り)が漸く出てくる。アドリブのようで全然アドリブではない。曲中で三度も同じような事をやっている。さすがに三度目はヴァリエーションだが、少なくと初めの二度は区別がつかない。作曲されたフレーズだ。
まるまるセッツァー通りに弾きたくば自力でコピーしていただくとして、ここでは音選びだけを記す。技術に応じた速度でこれらの音を辿れば、曲としては形になる筈。
+−+−+●+−+●+−+○+
+−+−+●+−+●+−+−+
+−+−+●+−+●+●+−+
+−+−+●+●+●+−+−+
+●+−+●+−+●+−+−+
+−+−+−+−+−+−+−+
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○はチョーキングで出している音。ペンタトニックのようでペンタトニックではない。感覚的に「弾きたい」音と、理論から導き出した音、そして単なる指癖とが、絶妙にブレンドされているのだと思う。セヴンスではないからと減七度の音を避けたつもりで、後半はつい弾いてしまったようにも見えるし、計算尽くでセヴンスのニュアンスを、敢えて後半まで溜め込んだようにも見える。単なるロカビリィ癖にも見える。
ともあれ「これがセッツァーのメジャーコードの音使い(の一つ)」として、左手に叩き込んでおいて損はないと思う。
次回は曲の肝とも云えるBメロ。基本的にバックバンドに任せ、セッツァーは好き勝手に茶々を入れている風情だが、ホーンセクション抜きでも成立するよう構成されている。彼のジャンゴ好きも顕れているので、是非とも御期待ください。

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