ギグ中、一曲のバラッドの為にアコースティックギターを持ち歩いているバンドなど見ると、贅沢ぶりを羨ましいと感じる以前に裏方(大概本人なのだが)の苦労に同情してしまう。ギター弾きのこの種の拘りはメンバーにさえ通じにくい。「あっちのエレキでも似た音出るんでしょ」ってなもんだ。
あるリペアマンが云った。「ギター弾きって足許に色々並べててもさ、大まかに二種類の音しか出さないんだよ。1ステージに二種類の音。何故か三種類の奴っていない。人間のキャパってそう決まってるのかね」
2/13のラヂコンズでパンドラPX5Dを活かそうと、試行錯誤中。
ラヂデパと違い、こちらでの僕は完全に伴奏者――脇役なので、音が立ち過ぎない方が望ましい。エフェクトで散らすと、歌との馴染みが良い。
ドゥワップのスタンダードは、どれもコード進行が似通っている。せめて音色で変化をつけないと、同じ曲をテンポを変えながら繰り返しているように聞えかねない。
――といった理由による。が、ストンプボックスを並べたボードを持ち歩く、体力も趣味も無い。運んでいた時期もあるが、電気ものは介在物が増えるごと、悩みと故障が等比数列的に増していくので、やめてしまった。
アンプまでの間はなるべくケーブル一本にしておきたい。例えば何曲かにリヴァーブが欲しいとして、足許のデジタルリヴァーブを踏むのは如何にもスマートだが、今の僕は迷わずアンプの前に走ってリヴァーブのノブを廻す。もしくはPA卓で掛けるよう頼んでおく。
ロカビリィを如何にもロカビリィっぽく演るには、スラップエコーがあった方がいい。しかしラヂデパで必要となる日は当分来ないだろう。何故ならロカビリィを演らないからだ。
ソロの多いステージで、ワウペダルがあれば、と感じる事はある。しかしあったらあったで、踏み戻すと急に音が聞えなくなったりして難しい。
ソロに入るとき突然ファズで音色と音量を変えたら、恰好良かろうなと思う。しかしそうやってインスタントに盛り上げてしまったアンサンブルを、いったいどのタイミングで元に戻すんだ? と迷う。
今は、ソロ前の一小節くらいの間にギター側で、1)ピックアップマイクのポジションを変える。2)必要ならタップスウィッチを戻す。3)ブースターのゲインを調整する。4)ボリュームを上げる、といった手順を踏んでいる。いざ書いてみると凄まじいが、自然にやっていて強く意識した事はなかった。ソロが終わると、歌の合間合間に逆の手順を踏む。
回りくどく書いてしまった。要するに今の僕に足許のエフェクターは、置いても一個が限度、という話だ。これをこの度はパンドラにしたいと。
PX5Dは構造上、即座に呼び出せるのは四つの音色まで。ボタンが小さいので曲中での切替えも難しい。しかし前掲のリペアマンの言葉が真理なら、充分過ぎる性能と申せまいか。
ROKABLY――登録文字数の関係で略されている。要するにロカビリィ――というプリセットを気に入り、弄り回していたら良い音になった。この音の為だけでもパンドラ買ったな、という程。基本的にそれを使っている。フェンダーアンプのぎゃんぎゃんした歪み、ずーずーいう低音が不得手だったのだが、やっと使い方が判ったような気がしている。
JAZZY、ACOUSTC辺りも(パラメータの仔細は弄ったが)ラヂコンズに向いている。この辺から選択していくのだろう。
本番では使わないだろうけれど、FAB4、WHOKIDSといったAC15系の音色も、出色の出来映え。前者は初期ビートルズの綽名であり、後者はフーの〈The Kids Are Alright〉の音という意味です、念の為。
リゾネイターギターをモデリングしたRESOや、トレモロ系の音も気に入って、早速デモに使っている。ラヂデパ・サウンドに不可欠と感じる迄に至ったなら、本物の為にローンを組めばいい訳で、シミュレイターというのはこの意味に於いて有り難い。
難、と個人的に感じる点については、ライヴの話題として次項に譲る。
最後にTIPS。UTILITY画面で、アウトプットがラインの場合と、各種アンプの場合を選択できる。しかし実際に録音したところ、ラインモードはスピーカーのチリチリした感じが、シミュレイションとしては正しいのだろうけれど僕には馴染まなかった。アンプのモードから選んだ方が結果が良かった。
タイトルは本来のパンドラの事。これも念の為。

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