サイズというより量感の差を御覧いただきたい。右はこれまで使ってきたダン・エレクトロのダン・エコー、左は先日購入したGuyatoneのMicro Delay “MDm5”。ダン・エコーのたぶん梟を模してある筐体は、写真ではプラスティックに見えなくもないが、ずっしりとしたダイカスト(亜鉛合金?)で、下手な場所で投げたら人が死にかねない。同じダイカストでもアルミニウム合金のMDm5は、空っぽかいなと思うほど軽い。
数百グラムの差だろうが、その蓄積が、移動が多いがローディは雇えない我々には重大な問題なんである。楽器や機材を、ただ運べばいいというのではない。その後にはリハーサルや本番が待っている。疲れる訳にいかない。疲れないのが義務であるとさえ云える。
僕は基本的にエコー類を好まないが、ロカビリー風の曲を演る時、'60年代風のエレキ・インストゥルメンタルを演る時、そしてチェット・アトキンスやAmos Garrettの真似をする時だけは例外。ギターが歪んでいないハードロックがほぼ成立し得ないように、人工的な残響無しのこれらも、不思議なほど成立しにくい。
本当はテープ・エコーが望ましい。しかし現行商品は皆無に等しく古い物も滅多に無く、あっても高いしでかいし重いしメンテナンスは大変だしで現実的ではない。ダン・エコーはその、MDm5はそれに近いアナログ・ディレイの、シミュレートが眼目のデジタル・ディレイだ。機能的にはほぼ同等で、どちらにもリピート音をわざと劣化させる機能が備わっている。「わざと劣化」だなんて字面では嫌らしく見えるが、書で云えば文字の掠れであって、設計者や弾き手の感性が問われる点だ。
機能は同等という事で、現時点で気付いている両ディレイの差異を並べてみる。大きさや重さ以外。
・MDm5はオンにした時、ややゲインが上がる。残響によって音像が奥まるのを補正しているのかもしれない。ダン・エコーは単純にリピート音が加わる。
・MDm5の方が、テープ・エコーを意識していないぶん音質が明るい。比較するとダン・エコーの音は曇って聞える。しかし原音には後者の方が近い。個人的にはダン・エコーの音質が好ましいが、お客はMDm5を「良い音」と感じるような気もする。
・若いバンドがよくやっているような、演奏中にツマミを操作してノイズを発生させるといった事は、MDm5の方が容易いだろう。僕はやらないが。
・MDm5は機械式トゥルーバイパス。ダン・エコーは通常の電子式。僕はトゥルーバイパスになんら価値を見出していないのでどっちでも宜しい。オン/オフは後者の方が円滑。しかし電池切れの際、MDm5ならオフれば音が出るのだろうが、ダン・エコーだとそこで信号が遮断されてしまう。
・MDm5は通電してから動作安定までに少し時間がかかる。三十秒程度だが微かなホワイトノイズが乗り、それから無音になる。思えばダン・エコーも購入当初は不安定だったので、こういう機器には「慣らし」が必要なのかもしれない。
・ダン・エコーの電池の出し入れは裏側から、MDm5は表から。どちらも工具無しで可能。ボードに貼り付けたりケーブルを繫いだまま交換しやすいのは、MDm5。
どちらも大変優秀なディレイには違いない。本当は他の機種も持っているのだが、この二つがある以上、滅多に出番はあるまい。
小ささ軽さのメリットは大きいから、当面はMDm5を携行しようと思う。ダン・エコーを壊したくないという事情も実はある。MDm5なら国産品だから、壊れても修理してもらい易い。機材を使い潰すほどライヴの多い人間には、そういった点が意外と重要だったりする。
それにしてもMDm5だなんて、どう見ても社内の品番をユーザーに押しつけるのはどうなんだろう。シリーズの他の機種もぜんぶこの調子なんで、たいへん憶えにくい。「マイクロ・ディレイと呼んでください」ってことなのかな?

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