消費税をめぐる情勢と増税発言
年金国庫負担引き下げへ
厚労省協議 積立金取り崩しも
2010年11月30日 赤 旗
財務、厚生労働両省は29日、2011年度予算案で基礎年金の国庫負担割合を現行の50%から36・5%に引き下げることで調整に入りました。必要となる2兆5000億円の財源確保のめどがつかないためです。吉田泉財務政務官と岡本充功厚労政務官が同日午前に財務省内で協議しました。
基礎年金の国庫負担率は、04年の年金制度改悪で3分の1から2分の1に引き上げることが決められ、09年度に36・5%から50%に引き上げられました。
09、10年度は財政投融資特別会計の積立金、いわゆる「埋蔵金」を繰り入れて国庫負担財源にあてました。しかし、財投特会の積立金は10年度末見込みでゼロと使い切ってしまうため、民主党政権では、財源のめどがついていません。国庫負担を下げた分は年金の積立金を取り崩します。
現行の年金制度は、国庫負担2分の1の前提で計算されており、仮に今後国庫負担を36・5%に下げたままにすると、27年度に年金の積立金が枯渇して制度が成り立たなくなります。
そのため、年金積立金を取り崩す分について、11年度中に税制抜本「改革」をして、12年度以降に金利をつけて年金会計に返済する案を検討します。しかし、12年度以降も、国庫負担財源を確保できるめどはなく、返済できる保証はありません。
来年度すぐに保険料の値上げや給付水準の引き下げをしないとしても、将来的には保険料の引き上げか給付の引き下げが避けられなくなります。
解説 財政の抜本的転換が必要 民主党政権が、2011年度予算案で、年金の国庫負担を2分の1から引き下げる検討に踏み込んだことは、民主党の財源論の破綻を示しています。
同党の09年総選挙のマニフェストは、特別会計も含めた国の総予算を組み替え、無駄遣いや不要不急の事業を廃止し、「埋蔵金」を活用するなどして新たな財源を16・8兆円生み出すとしていました。
しかし、鳴り物入りでおこなった昨年の「事業仕分け」では、国民生活にかかわる予算や学術・科学予算など無駄といえないものまで切り縮めながら、1兆円程度の財源しか生み出せず、独立行政法人や特別会計の「仕分け」でも財源を生み出せませんでした。
民主党政権の念頭にあるのは消費税増税です。11年度中に「税制抜本改革」をして消費税を引き上げ、12年度以降、基礎年金の国庫負担50%に対応する考えが透けて見えます。「年金制度を破綻させたくなければ消費税増税を」と国民にせまるものです。
しかし、消費税は年金生活者など社会的弱者に最も重い負担がかかります。年金を保障するための財源に、消費税をあてるのはまったくふさわしくありません。
国庫負担の36・5%から50%への引き上げを消費税増税でまかなった場合、国民の負担は増える一方で、基礎年金拠出金への企業負担は減ります。消費税を負担しない大企業が一番、得をします。
いまの日本経済に必要なのは、大企業が投資先もなく抱えこんでいる巨額の内部留保を、社会保障の充実や雇用の安定を通じて国民に還流し、内需を活性化することです。
財務省は、法人税減税のためには最大で4・5兆円の代替財源を生み出せると計算しています。
「アメリカいいなり、大企業最優先」という日本の政治の「二つの異常」に切り込み、軍事費を減らし、大企業・大資産家優遇税制を見直すという国の予算の抜本的な転換がいまこそ切実に求められています。(西沢亨子)
法人税の実質減税を…民主提言案
2010年11月26日 読 売
民主党税制改正プロジェクトチームは26日午前、2011年度税制改正に向けた提言案をまとめた。今後、最終決定し、月内にも政府に提示する。最大の焦点となっている法人税減税について、企業の税負担を減らす実質減税を求めたほか、子ども手当の財源案に浮上している配偶者控除の所得制限は見送るべきだとの考えを示した。ただ、政府税制調査会や財務省と意見の異なる点も多く、政府が年内の取りまとめを目指す11年度の税制改正にどこまで反映されるかが焦点となる。
提言案は、法人税減税について、減税により経済活性化を図る必要があるとの認識を示し、「行き過ぎた課税ベース(対象)拡大による負担増が経済成長を阻害することがないように留意する必要がある」と指摘した。
介護保険 社保審意見書
負担増・給付減 委員からも批判
国費増やす公約どこへ
2010年11月26日 赤 旗
厚生労働省の社会保障審議会介護保険部会が25日にとりまとめた意見書は、介護保険料(65歳以上)が2012年度に平均で月5千円を超すのが嫌ならば利用者への負担増・給付減が避けられないと、高齢者を脅す内容です。
困難と切り捨て
同部会の議論では、負担増・給付減の全項目が委員から強い批判を受けました。
「軽度者と生活援助の給付除外は、国民との約束を反故(ほご)にするもの」(全国老人クラブ連合会・斉藤秀樹事務局長)、「(ケアプラン作成を有料化したら)必要な時に必要な介護サービス等の利用ができなくなる」(日本介護支援専門員協会・木村隆次会長)、「『介護の社会化』の理念に立ち返るべきだ」(認知症の人と家族の会・勝田登志子副代表理事)
民主党政権は、これらの声に真剣に耳を傾けるべきです。
しかし、多数の委員が切実に求めていた、介護保険財政に占める公費負担割合の5割から6割への引き上げは、「困難」と切り捨てました。
民主党は昨年の総選挙で「生活第一」「医療・介護の再生」を掲げ、介護保険への国費投入を「8000億円程度」増やすと公約して政権に就いた経緯があります。これは公費負担を6割に引き上げるのに必要な費用(厚労省試算で7400億円)を上回る額です。
それなのに国費を増やさず高齢者の生活に負担を押し付けるのでは、国民への約束の核心部分を投げ捨てる裏切りです。
商業紙では消費税増税論議の停滞に財源不足の原因を求め、増税へのレールを敷こうと狙う論調が目立ちます。しかし低所得者に負担の重い最悪の不公平税制である消費税を増税するのでは、弱い者いじめに何ら変わりありません。
国民生活を圧迫する政治がまかり通れば、経済が冷え込み、国の財政はますます悪化します。悪循環を加速させるだけです。
財源はつくれる
財務省は大企業優遇税制を縮減すれば4・5兆円の財源が生まれると試算しています。
大企業がもうけをあげれば、それが国民生活にしたたり落ちるというのは、いまやまったく成り立ちません。
大企業・大資産家への過大な減税や軍事費の浪費にメスを入れて社会保障を拡充し、ヨーロッパ諸国と比べて著しく弱い所得再分配機能を強化することこそ、日本社会に明るい展望を開く改革です。(杉本恒如)
介護保険―増税なしでは行き詰まる
2010年11月26日 朝 日
高齢社会で介護の費用は増え続ける。だが、保険料の引き上げは壁に突き当たりつつある。そこで、利用時の負担増やサービスの削減を検討せざるをえなくなった。
2012年度から3年間の介護保険制度について、厚生労働省の審議会がきのう意見書をまとめた。その文面からはこんな窮状が透けて見える。
参院選での民主党大敗後、菅政権が消費税を軸とする増税論議を封印したため、新規の財源確保は間に合わなくなった。そのことが保険制度内での負担増や、サービス給付削減の圧力を高めている。このままでは介護保険はやせ細り、安心は遠ざかる。
もはや政府が「税金を上げないと、制度がもちません」と国民に正直に言うべき時ではないだろうか。厚労省によれば、現在のサービスを維持するだけで65歳以上が負担する保険料の全国平均は12年4月から今より1千円も増えて月額約5200円になるという。高齢化による介護費用の膨張圧力はそれほど大きい。
市町村は、高齢者からは主に年金天引きで保険料を集めているが、大幅な負担増は難しいとの声が強い。このため審議会の意見書は「保険料は月5千円が限界との意見もあり、伸びをできる限り抑制するよう配慮することも必要である」とした。
その具体策として、サービス量を減らしたり、利用に応じた負担を増やしたりする選択肢を並べた。年金などの収入が比較的多い人の自己負担を現行の1割から2割に増やす案が打ち出された。だが、収入の多い人はすでにより多くの保険料を払っているから、反発が予想される。
要介護度の軽い人が多く利用する掃除などの生活援助に関する負担増の提案もあるが、反対意見との両論併記となった。自宅での生活に必要なサービスの利用を控えたために重度化し、病院や施設に入るなどすれば、介護費用が逆に膨らむ恐れもあるからだ。
増税による新たな財源を期待できない以上、当面は制度の枠内でやり繰りすることはやむをえない。けれども、こんな状態が続けば保険料や利用者負担がじりじり上がり、サービスは低下するという悪循環に陥る。
審議会では、単身・重度の要介護者も在宅で暮らせる「地域包括ケアシステム」構想も示された。だが、財源なしでは絵に描いた餅にすぎない。
介護保険を行き詰まりから救い出し、安心して暮らせる高齢社会を築くには、裏付けとなる財源を示す必要がある。業界や利用者の代表らで構成する審議会では限界がある。
やはり消費税を含む税制と社会保障全体の抜本改革が欠かせない。菅政権は今、そのことを自覚し、勇気をもって国民に語らねばならない。
介護保険見直し 財源抜きのやり繰りも限界だ
2010年11月26日 読 売
高齢化が加速する中で介護保険制度をどう見直すか――。社会保障審議会の介護保険部会が25日にまとめた意見書は、現状の財源の枠内で、さまざまな調整策を提示するにとどまった。
政府・与党は社会保障の財源に欠かせない消費税の議論に及び腰で、改革姿勢が全く見えない。そんな状況では、思い切った意見を出すのは難しい。「見直し」より「帳尻合わせ」という言葉がふさわしい内容になったのも、無理はなかろう。
世代を問わず保険料や窓口負担の重さは限界に近い。制度を維持するには、消費税率を引き上げて公費の投入を増やすしかない。
介護保険制度は2000年に導入されてから10年たつ。サービス利用者は制度発足時の149万人から、現在は約400万人まで増えている。介護費用は当初の3・6兆円から7・9兆円に膨らんだ。高齢者が払う月額保険料も、初年度の平均2911円が、今では4160円だ。
厚生労働省の試算によると、このままでは12年度に5000円を超え、介護職員の待遇改善のための報酬改定などを織り込むと5200円になる。夫婦で月1万円以上の介護保険料は、負担の限界を超えるとの声が強い。
5年に1度の節目となる今回の見直しでは、老老介護など深刻な状況に対処するための対策などと併せ、介護の必要度が低い人をどの程度まで制度の対象とすべきかといった、掘り下げた議論が期待されていた。
だが、保険料を月4000円台にとどめるための方策をひねり出すことで精いっぱいだった。たとえば、所得の高い高齢者はサービス利用時の自己負担を現行の1割から2割に引き上げる、企業の組合健保や公務員共済に加入する現役世代にも保険料の負担増を求める、といった措置だ。取りやすいところから取る、という図式は、後期高齢者医療制度の見直しと共通している。
財源について、意見書は「社会保障と財政のあり方全体の中での課題である」と記し、間接的な表現ながら、消費税の議論の必要性を指摘している。
政府・与党は、来年の通常国会に介護保険法の改正案を出す方針だ。意見書の内容をどこまで盛り込むかは政治の判断になる。
増大する利用者と介護費用に見合った財源を確保する道筋を示さなければ、国民に受け入れられる制度にはなるまい。
法人税 「実質減税」 提言へ 民主
2010年11月25日 読 売
民主党の作業部会は24日、2011年度税制改正の焦点である法人税減税について、企業の税負担を減らす実質減税を政府税制調査会に提言する方針を固めた。企業の国際競争力を強化するには、税負担を軽くする必要があると判断した。財務省は、財政悪化を防ぐため、税収減を補う財源を確保する必要性を主張しており、税制改正大綱のとりまとめに向け、議論は難航しそうだ。
社会保障 大企業に応分の負担を
大門議員 証券優遇税制の廃止要求
2010年11月23日 赤 旗
日本共産党の大門実紀史議員は22日の参院予算委員会で、社会保障の財源は消費税でなく、大金持ちと大企業に応分の責任を果たさせるよう求めました。
大門氏は、政府税制調査会の資料をもとに、所得が1億円超から所得税負担率が低下するのに反比例し、所得に占める株式譲渡の占める割合が増えていることを示しました。株式譲渡益や配当に対する税金は本来、税率20%なのが10%に軽減されています。
野田佳彦財務相は「所得税は一定の所得水準から累進性を失っている」「原因の一つとして、金融所得に関して低い税率が適用されていることが考えられる」と答えました。
大門氏は「消費税は所得の少ない人ほど重くなる逆進性を持つ税金であり、所得再分配に逆行する。財源は応能負担でまかなうべき」だと指摘。応能負担の原則に反する証券優遇税制の廃止を求めました。
野田氏は、10%軽減は「2012年に本則に戻すことになっている。これを踏まえて今議論している」と述べました。
次に大門氏は、各国の社会保障財源の内訳を提示(グラフ参照)。「ヨーロッパの社会保障が充実しているのは消費税率が高いからだと宣伝されているが、財源に占める消費税の割合は1割にすぎない。大企業がちゃんと負担しているからだ」と指摘。「日本では企業の負担がかなり低い。この上、法人税を下げて消費税を上げれば、大企業の負担は減り、国民負担が増加することになる」と強調しました。
菅直人首相は「もう少し検討させていただきたい」と、大門氏の指摘を否定できなかったものの、「法人税が他国に比べて高いと雇用が失われると心配する」などとのべました。
大門氏は、巨額の内部留保をためこんでいる大企業にきちっと負担させるべきだと強調しました。
法人税引き下げ 「税収中立」では意味がない
2010年11月22日 読 売
世界最高水準にある日本の法人税を引き下げ、企業の国際競争力を高める――。そんな菅政権の税制改革構想に早くも黄信号が灯っている。
政府税制調査会が、来年度税制改正の焦点である法人税を巡る論議を本格化させている。だが、減税の効果や代替財源を巡って減税推進派と慎重派の溝は深く、議論は迷走気味だ。
企業活力を引き出し、雇用や投資の拡大につながる法人税減税は世界的な潮流であり、菅政権が包括的な税制改革を断行できるかどうかの試金石と言える。首相は指導力を発揮し、来年度から実質引き下げを実現すべきである。
日本の法人税は、国と地方の税率を合わせた実効税率が40・69%で、10年間据え置かれている。この間、主要国では法人税の引き下げ競争が続き、アジア諸国は10〜20%台まで低下している。
このままでは、経済成長を支える企業が重い税負担を嫌って海外に移転するケースが増え、外国企業の対日投資も呼び込めない。
確かに、企業行動は税の重さだけで決まるものではない。だからと言って、割高な法人税を放置すれば、国内産業が空洞化し、雇用も減少しよう。それを防ぎ、日本に立地する魅力を高めるためにも法人税下げは急務である。
問題は財源だ。税率を5%下げれば、税収は約2兆円減少する。財務省は、法人税負担を軽くしている様々な特例措置を見直せば、最大4・5兆円を捻出できるとして、減収分を完全に穴埋めする「税収中立」を主張している。
これに対し、経済界は優遇措置の縮小には反対の立場だ。
厳しい財政事情を考えれば、税率下げと同時に、課税対象を拡大し、一定程度の増収策を講じるのはやむを得まい。例えば、赤字を翌年以降の黒字と相殺できる繰越欠損金制度の見直しなどは検討対象となろう。
ただし、法人税率引き下げと課税対象の拡大を差し引きすれば、税負担が現状より軽減される純減税とすべきだ。「税収中立」では、企業にとってメリットは、ほとんどない。
労使が法人減税協調
2010年11月18日 朝 日
日本経団連の米倉弘昌会長は17日、東京・大手町の経団連会館で懇談した。経団連が「日本企業を成長軌道に戻し、雇用の維持・増加につながる」と主張する法人税引き下げについて、連合側は「減税分は国内投資や雇用に回されるべきだ」という条件付きで同調する姿勢を示した。環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への参加についても、基本的に進めるべきだとの考えで一致。新卒者採用では、連合側から「卒業後3年は新卒扱いできるように経団連としても協力してほしい」と求めた。
みんなの党 財界要求 露骨に代弁
労働者派遣法改正に反対■法人減税・・・
2010年11月18日 赤 旗
参議選で議席を増やした、みんなの党は国会で何を主張しているでしょうか。
最高顧問を務める江口克彦議員は4日の参院本会議で「家計は善、企業は悪とのアンチビジネス施策は破たんしている」「企業活動の自由度を高め、競争を促す政策への大転換を」求めました。
労働者派遣法の改正にも反対し、法人税の実効税率「20%程度」への引き下げや、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)参加表明を迫りました。
その主張は「効率的な投資を行えるのは企業だけ。雇用を生み、家計を支えているのも企業である」という典型的な企業第一主義。「道州制」「株式会社による病院経営や農地の取得」「規制改革の断行」など、財界・大企業が求める露骨な「構造改革」路線です。
寺田典城議員(前秋田県知事)は11日の参院総務委員会で「小泉改革について、ある面で非常に評価している」と表明。「小泉さんのときは(地方交付税を)5兆円も削った。あれだけ削っても大勝したでしょう」と持ち上げました。
同党が「増税の前にやるべきことがある」と豪語していた消費税増税問題はどうか。浅尾慶一郎政調会長は15日の衆院予算委員会で、公務員の給与が高いと決め付け、「(このままで)将来、消費税の増税の議論がでるとき、増税をお願いすることができるか」と迫りました。
首相 「TPP協議始める」
CE0サミット 法人減税にも意欲
2010年11月13日 読 売(夕刊)
菅首相は13日午前、横浜市で開かれた最高経営責任者(CEO)サミットであいさつし、日本が環太平洋経済連携協定(TPP)の協議開始を含め、世界との経済連携の強化を進める考えを表明した。
首相は「日本の繁栄は、世界、特にアジア・太平洋地域と成長の道を歩むこと抜きに考えられない。閣議決定した基本方針の下、EPA(経済連携協定)や広域経済連携について高いレベルで目指す」と述べた。その上で、「TPPについては国内の環境整備を早急に進め、関係国との協議を開始する」と説明した。
また、対日投資を促進するため、「法人税引き下げや事業活動の障壁となっている制度の見直しに積極的に取り組む」と強調した。
CEOサミットは、アジア・太平洋地域の経済統合やエネルギー・環境問題を話し合うため12日から2日間の日程で開かれている。
法人税、来年度5%幅引き下げで最終調整 政府税調
2010年11月12日 朝 日
政府税制調査会は11日、来年度税制改正で法人税の税率を5%幅引き下げる方向で最終調整に入った。国と地方を合わせた実効税率は40.69%だが、そのうち国税の基本税率(30%)を引き下げる。現在検討している企業向けの減税措置の縮小などによる財源の確保策では引き下げ分を穴埋めできないが、企業の投資拡大を促す効果もあるとして、減税が先行することを容認する。
法人税率引き下げは、1999年に基本税率34.5%を30%にして以来12年ぶり。中国や韓国は実効税率を20%台まで下げたほか、ドイツも先進国で最低水準の29.41%にするなど、各国では「引き下げ競争」が進んでいる。日本企業が国際競争をするうえで不利な状況になっており、菅直人首相は成長戦略の柱として、年内に結論を出すよう指示していた。
政府税調は、6月に閣議決定した「新たな減税を実施する場合はそれに見合う財源を確保する」との方針を踏まえ財源案の検討を進めてきた。
5%幅引き下げると、1兆円を超える減収になる。政府税調は、赤字を翌期以降の黒字と相殺できる「繰り越し欠損金」を見直す。これにより過去に不良債権処理で巨額赤字を計上し、税金を払ってこなかった大手銀行などに負担を課す。また、資産の目減り分を経費として損金算入できる「減価償却」の見直しや「証券優遇税制」の廃止による増収策もとる。ただ、これでも法人税率引き下げに見合う金額には達しない見通し。
産業界が縮小に反対している研究開発税制は小幅な見直しにとどめ、石油化学製品の原材料となるナフサへの課税は見送る方針だ。(伊藤裕香子)
主 張
法人税率引き下げ 「やらなくて結構」ならば
2010年11月10日 赤 旗
日本経団連の米倉弘昌会長(住友化学会長)が、法人税率引き下げは「やらなくて結構」と言いだしました。といっても、負担増が続いてきた国民に遠慮したわけでも、厳しい財政にようやく思い至ったわけでもありません。
米倉会長は8日の記者会見でのべました。税率引き下げは「課税ベースの拡大(と引き換え)と言うなら(やらなくて)結構」―。
大企業優遇の租税特別措置を見直して税率引き下げの財源をつくるやり方では恩恵が目減りするから、それなら「やらなくて結構」と言い始めたわけです。
消費税増税を財源にと
政府税制調査会は法人税率を5%引き下げるための財源を検討しています。財務省は、大幅に拡充してきた研究開発減税や大銀行の法人税負担をゼロにしてきた「欠損金の繰越控除」など、大企業優遇税制の縮減を提示しています。単純合計で、その総額は4・5兆円に上ります。
優遇措置が減るなら「やらなくて結構」というのは「駄々っ子」のような言い分ですが、そんなかわいいものではありません。財界の税制要求に照らせば、米倉会長が「やらなくて結構」と言って求めているのは、「法人税率引き下げの財源は消費税増税で生み出せ」ということだからです。
日本経団連は「成長戦略」の第一に法人税率の引き下げを掲げています。大企業の実際の税負担はフランスやイギリスより低いにもかかわらず、日本の税率は高すぎるとして大幅な引き下げを求めています。その財源は消費税増税でまかなえというのが財界の年来の主張です。
民主党政権は財界の「成長戦略」を丸ごと受け入れて政権の「新成長戦略」に盛り込み、夏の参院選公約にも法人税減税と消費税増税を掲げました。参院選直前に菅直人首相が「消費税率10%」を打ち出したのは、この流れの中でのことです。しかし、民主党の方針は選挙で国民の手厳しい審判を受け、そのまま推進するわけにはいかなくなっています。
日本共産党の志位和夫委員長が10月7日の衆院代表質問で、「『空前の金あまり』状態にある大企業に、法人税減税でさらに数兆円ばらまいたとして、いったいどのような効果が生まれるのか」とただしたのに対して、菅首相はまともに答弁できませんでした。
その後、政府の国内投資促進円卓会議で首相は「法人税を下げても、そのお金がため込まれるのでは効果が薄い」と語りました。佐々木憲昭衆院議員の財務金融委員会での質問に、野田佳彦財務相も「法人実効税率を引き下げても本当に効果があるのか、議論の余地が相当ある」と答えています。
暮らしの予算に充てて
首相や財務相が「効果が薄い」、効果があるのか分からないと言っているにもかかわらず、民主党政権は法人税率引き下げを既定の路線として進めています。そんな減税の財源として、苦肉の策として持ち出してきたのが大企業優遇税制の縮減です。
当の財界が、それなら「結構です」と言っているのですから、効果も見いだせない法人税率引き下げはやめるべきです。財務省が示した大企業優遇税制の縮減案はぜひ実行して、国民の暮らしの予算に充てるよう求めます。
「名目だけの減税なら不要」
米倉経団連会長が反発
2010年11月9日 朝 日
日本経団連の米倉弘昌会長は8日の記者会見で、法人税率の引き下げに見合う財源を確保することについて、「課税ベースの拡大(が条件)なら、(税率引き下げは)結構ですと言わざるを得ない」と述べ、企業全体の税負担が減らない法人税の改正には反対する考えを示した。
政府税制調査会は法人税率の引き下げを検討する前提として、企業向けの税優遇を縮小・廃止することで減税分に見合う財源を確保する方針。赤字を翌期以降の黒字と相殺できる「繰り越し欠損金」の見直しや研究開発減税の圧縮などが候補になっている。
米倉氏はこの考え方について「法人減税は経済成長を促すために必要だと主張してきた。名目だけの減税になるなら、(税制の)抜本改革の時に法人税も考えていくべきだ」と批判し、先送りを容認することも示唆した。
政府税調の方針には、民主党内からも反発が出ている。税制改正プロジェクトチームは8日の総会で法人減税を議論し、吉田治衆院議員は「これでは増税のオンパレード」と反論した。
補正予算案 自民、消費増税を迫る
代表質問 首相「基本は同じ方向」
2010年11月5日 赤 旗
衆参両院は4日、本会議で2010年度補正予算案に対する代表質問を行いました。
自民党の伊吹文明衆院議員は、同党が提出した財政健全化責任法案をめぐり、「社会保障の財源はすべての人が支払いに応じ負担する消費税を求めるとの考え方を共有するか」と質問。「できもしない公約で票を取り、政府を掌握すれば、できないことを説明し許してもらいたいでは、票の振り込め詐欺ではないか」とのべました。
菅首相は、財政健全化責任法案について「方向性や健全化の目標などについて政府が決定した財政運営戦略と基本的には同じ方向にある」と応じました。(後略)
法人減税の財源案を策定
政府税調 繰り越し欠損金など柱
2010年11月5日 朝 日
政府税制調査会は4日、法人税率を引き下げる場合に検討する財源案をまとめた。赤字を翌期以降黒字と相殺できる「繰り越し欠損金」や、資産の目減り分を経費として損金算入できる「減価償却」の見直しなどが柱。このなから、法人税率引き下げに見合う財源の確保を検討する。
法人税率を5%引き下げた場合、財務省は国税で1.4兆〜2.1兆円の減収になると試算しているが、経済産業省は「1兆円超」と主張している。政府税調は、経産省も理解を示している繰越欠損金と減価償却の見直しを軸に検討する方針だ。
一方、研究開発減税や石油化学製品の原材料となるナフサへの課税強化などは、恩恵を受ける業界が偏っているとして財源候補に挙げられたが、経済界は「企業の競争力が逆に弱くなり、国内立地が危うくなる」(日本経団連)などと強く反発している。
法人税率の引き下げをめぐっては、菅直人首相が年内に結論を出すよう指示。財政規律を保つため、減税する場合は、それに見合う財源を確保することを閣議決定している。
■ 政府税調がまとめた法人減税の財源案
・ 減価償却制度の抜本見直し ・ 貸し倒れ引当金などの廃止・縮減
・ 繰り越し欠損金の制限 ・ 受取配当や一般寄付金の税優遇見直し
・ ナフサ免税の見直し ・ 特別・割り増し償却や準備金の見直し
・ 研究開発税制の大幅縮減 ・ 特定事業用資産の特例の見直し

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