イギリス石ころの旅(4)
ビアーヘッド
見事なチョークの崖 チョークの白と草原の緑、空の青 ハイキングのコースになっている
童話に出てくるようなかわいらしい二階建て電車
コリフォードという小さな町にあるスワローズホテルに3日間宿泊しました。その近くに童話に出てくるようなかわいらしい二階建て電車が走っていて、シートンという町まで乗りました。踏切などでは運転手が電車から降りて遮断機を下ろし、道路を渡り終わると電車を止めて、また降りて遮断機を上げて発車するというのんびりした様子にみんなびっくり。
航空写真にみるビアーヘッド
シートンの町からバスに乗ってビアーという町に行きました。すぐ近くに海が見えて、この辺りの崖は真っ白でした。直角になったビアーヘッドの崖の上は緑の牧場になっており、私たちはピクニック気分で緑の草原を横切りながらしばらく歩き、そして急な細い坂道を下って玉石の敷き詰められた海岸に到着しました。
途中の坂道でチョークのサンプルと挟まれているフリントのかけらを記念に拾っておきました。
この白い崖の下で化石を見つけるのでした。そこでは、小さな巻き貝の化石を採取しました。これがアンモナイトの赤ちゃんなのか、単なる巻き貝にすぎないのかこの時点では分かりませんでした。帰ってから専門家に見ていただきましたが、殻が厚いこと、隔壁が見えないことなどからアンモナイトでないことが分かりました。
平らな巻き貝で、直径が1p前後です。カッターナイフでほじくり出して採取しました
化石はその巻き貝だけしか見つけられませんでしたが、この海岸の石ころに感動しました。表面は砂岩や石灰岩のように見えますが、すべてチャート(フリントが丸くなったような石ころ・石英)でした。
砂岩のような石ころですが、割れ口が貝殻状になっており、ガラス質です
まるで石灰岩のようですが、塩酸をたらしても反応がありませんでした。
石英と同じ成分(SiO2)の石が、どうして穴ができるのか疑問です。
この海岸で穴の開いた石ころがよく見かけられたので、石英のように堅い石ころがどうして穴が開くのか不思議でした。もしかしたら石灰岩ではないだろうかと思いましたが、帰って塩酸をたらすと反応がなかったのでチャートであることが分かりました。
外国の婦人が、穴の開いた石ころに紐を通して集めていました。
「チョーク」 まさに黒板に字を書く白墨(チョーク)のように手に白い粉がつきます。
「チョーク」は、未固結の石灰岩です。ドーバー海峡周辺から対岸のフランスの海岸でも白い崖を造っているようです。日本では、この白い厚い地層が堆積した年代から白亜紀の語源となっています。
チョークの地層は、円石藻(えんせきそう)の化石(炭酸カルシウムのココリス)から成っているそうです。
円石藻は、海洋性の植物プランクトンで、細胞内に葉緑体を持ち光合成を行う独立栄養生物といわれ、円盤状のプレート(円石・ココリス)によって細胞が覆われているのです。
大きなフリントを金槌でたたいて割ると、貝殻状の断面をみせ鋭利な包丁の歯のように鋭い
「フリント」は、火打ち石の意味で、一種のチャート。
チャートは、珪質の堆積岩の一種で、ほとんど生物源のシリカSiO2(二酸化ケイ素)からなる細粒・緻密な堅い岩石です。すなわち珪質の骨格や殻をもつ放散虫や珪質海綿あるいは珪藻の遺骸が集積してできたものです。普通は乳白色で、含まれる不純物によっていろいろな色調のものがあります。石英と一緒の成分ですので、硬くて割ると貝殻状断口を示すことが多いのです。
フリントがはめ込まれた外壁
イギリス南部では、このフリントが多く産出されるらしく、しかも雨風に強く耐久性に優れているので建築材料として内壁や外壁に使用されているようです。
私たちが宿泊したホテルの周辺の家々の石垣や塀の壁、あるいは建物の壁などいたる所でこのフリントがはめ込まれていました。
フリントは、割れると鋭利な断面をみせるため、刃物などの道具、矢じりなどの武器としても使用されてきたようです。19世紀初頭まで火打ち石として使用されてきたので、その意味を持っているのでしょう。
チョークの白い崖、そしてそこに挟まって存在するフリント、私にとってその謎が解けてきたように思えます。ドーバー海峡をはじめ、イギリスとフランスの間の海に炭酸カルシウムの殻を持つ円石藻やシリカからなる骨格や殻を持つ放散虫などが白亜紀に大繁殖をして堆積してできた地層なのでしょう。
ドーバー海峡付近・チョークの白い崖が続く

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